ハタハタの一夜干しが焼きあがった。
柔らかい白身魚だけれど、丁寧に焼き上げると、ぷりっとした食感に変わる魚だ。
美味しく味わう方法は多々あるけれど、私は旨味が増したように感じられる一夜干しが好きだ。
肉厚のそれが、あまりにも美味しそうな姿に焼きあがったものだから、待ちきれず、キッチンで熱々を一尾だけ口に運んだ。
お行儀は悪いけれど、はふはふしながら口にするハタハタの摘まみ食いの美味しいこと。
摘まみ食いをしてしまっては、後で口にするときの感動や美味しさが目減りするという声もあるけれど、二度目は二度目で、知っている美味しさを再確認する至福のときである。
と思ってしまうのは、あまりにも都合が良すぎるだろうか。
ハタハタ(鰰)は、神様の魚と記される魚だ。
他には「雷魚」と書いて「ハタハタ」や「カミナリウオ」と呼ぶこともあるし、魚偏に雷を添えた一文字でハタハタと呼ぶこともある。
これは、ハタハタが獲れる地域のひとつである秋田に住む知人の受け売りだけれども、ハタハタを収穫する晩秋頃は雷が多く発生することから、雷が鳴る時季に獲れる魚ということで、その名前と言葉の響きに「雷」の文字が盛り込まれているそうだ。
雷の文字は盛り込まれていないけれど神様の魚と記される理由もこれに同じで、古より雷は神様が鳴らしていると思われており、雷は神様の印でもあったことから、ハタハタを「鰰」と書くという。
そして、「ハタハタ」という在りそうで無い、耳に残る名前の響きだけれど、こちらもまた、語源を辿ると雷に行きつく。
先人たちは、雷(雷光)を「はたはた神」と呼んでいたことがあったそうで、「ハタハタ」という響きは、ここから取っているという説があるという。
私は知人から、「雷、カミナリ、かみなり」と念押しされているようだと錯覚しそうになるくらいに詳しく聞かされたものだから、今では、ハタハタの背中に散らばるようにあるまだら模様が稲妻に見えるときがある。
まぁ、それもまた美味しさのトッピングのひとつになっているのだけれど。
そう言えば、ハタハタは日本三大魚醤のひとつ「しょっつる」の材料でもある。
魚醤とは、生魚を塩で漬け込んで発酵させたときにでる液体のことで、これを熟成させて完成する調味料だ。
そして、本来であれば捨てられてしまう部位も漬け込むことから、魚の旨味と素材を余すことなくいただく知恵が詰まっている調味料だとも言える。
このような知恵は世界各地にあるけれど、海外調味料で言うならば、タイのナンプラーやベトナムのニョクマムがこれにあたるかと。
旨味と塩味だけでなく香りも強いために、魚醤は苦手だという方も多いけれど、僅かな量でお魚の旨味を出すことができるので、私はナンプラーと共に時々お世話になっている旨味調味料だ。
しょっつるに変身したハタハタもいいけれど、まずは焼きたての熱々を。
やはり今年も、そのようなことを思いながら、キッチンで冬がやってきたことを感じた夜である。
ハタハタや魚醤を味わう機会がありました折には、今回の何かしらをちらりと思い出していただけましたら幸いです。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/