タクシー乗り場で順番待ちをしていた時の事。
私の少し後ろに並んでいるおじいさん達の楽しそうなお喋りが耳に届いておりました。
声が大きいなとは思ったものの忘年会と称して久しぶりに顔を合わせたのかもしれません。
振り返りはしなかったのでお顔の表情までは確認していないのですが、
まるで少年のような声の弾み方に思わず私の口元も緩みました。
歳を重ねると大なり小なり何かしらあるものだけれども、
男性女性を問わず、こうしてイキイキとしている先輩方の空気を感じる度に
元気を分けていただいたような気持ちになりグッとお腹の底に力が入ります。
ビルの隙間を抜けて吹き込んできた冷たい風にギュッと目を瞑った瞬間、
あの背後のおじいさん達からこのような言葉が次々に聞こえました。
「武士道と云うは死ぬ事とみつけたり」、「「「みつけたり!!」」」と。
もう、その辺りにいる中高生の戯れと大差ないノリでございました。
おじいさん達の突き抜けっぷりが素晴らしく、周りに人が居なければワタクシ、大笑いしてしまっていたことでしょう。
ただ、どこかで見聞きした文言だったため私の意識はそちらに向かいました。
おじいさんたちが盛り上がっていた文言は、
江戸時代に書かれた『葉隠(はがくれ)』という書物に出てくる一説です。
私は数年前に興味の数珠繋ぎの先で出会い目を通したことがあり、
それが記憶に残っていたようでした。
江戸時代の書物だなんて、お固くて、小難しいことが沢山かかれているんじゃないの?
と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
私も、そのような印象を持ったまま頁を捲りましたのでわかります。
ただ、読む前の印象と読後の印象が全く異なったものでしたので、
今回は、「葉隠(はがくれ)」の中身をサックリとお話させていただこうと思います。
「葉隠(はがくれ)」をひと言で説明するならば、武士道精神が書かれた本なのですが、
じっくり覗いてみると、あくびが出そうになったときの止め方、
部下の失敗を軽やかにフォローする方法、
苦手な上司からのお酒を失礼なくお断りする方法といったことが大まじめに書かれております。
現代のものに置き換えるのならば、
マナー本を兼ねたビジネス書といったところでしょうか。
ビジネス書に「あくびが出そうになったときの止め方」が書いてあるなんて、
と思いましたが、武家社会には今の私たちには分からない武家社会の大変さがあり、
上司の話の途中であくびでもしようものなら命を落とすことになってしまう、
といったこともあったのかもしれません。
「葉隠(はがくれ)」を読んで武家社会に生きた人々も、
時代は違えど今の私たちとあまり変わらないのかもしれないと感じました。
これが「葉隠(はがくれ)」という書物の中身です。
ちなみに、あくびが出そうになったら上唇を舐めると、出そうなあくびが止まると聞いたことはありませんか?
実はこれ、「葉隠(はがくれ)」の中に書かれておりますので、
江戸時代の人々も実践していたようです。
私には「葉隠(はがくれ)」の一説とおじいさんたちの弾けっぷりがどうしても繋がらなかった為、
きっと「葉隠(はがくれ)」には何か共通の思い出があったのだろうなと
勝手気ままに推測しつつタクシーに乗り込みました。
運転手さんに行き先を告げ、サイドミラーに目をやると
仰け反るようにして笑うおじいさんたちの姿が。
平和っていいな、そのような光景でございました。