その日は、遠方から近くまで出てきているという友人が自宅に寄ってくれるというので、
アフタヌーンティーの準備をしておりました。
ケーキスタンドを出しながら、英国暮らしをしていた頃のことを思い出したのです。
当時、あるご年配の日本人ご夫婦にとてもよくしていただいておりました。
そのご夫婦から、様々な国から来ている方々が集まるから遊びにおいで、と
アフタヌーンティーのお誘いをいただいだのです。
ご自宅へ伺い、奥様ご自慢のお庭へ出ると、
私の親世代、祖父母世代に見える方々が、既にお喋りに花を咲かせているところでした。
その中にドイツの方がいらっしゃって、挨拶もそこそこに私に質問を投げかけてきたのです。
ドイツでは病院へ行っても簡単には抗生物質を処方してもらえないのだけれども、
日本では抗生物質を簡単に出してくれるというのは本当かい?と。
ティータイムの美味しいスイーツに心躍らせながらその場に足を踏み入れた私にとって、
しょっぱなに受ける質問にしては、なかなか難易度が高いものでした。
「簡単に」という表現が的確なのかは分からないけれど、
風邪で病院へ行けば抗生物質を3日分くらいは出してもらえると答えましたところ、
信じられないと連呼しながら両手を左右の肩付近まで広げ、
手のひらを空へ向けながら首を横に振ったのです
なんて大げさなリアクションなのだろう……と内心思ったのですけれど、
話を聴き進めていくうちにドイツの医療事情、お薬事情を知り、
その方のリアクションが腑に落ちたのです。
ドイツではメディカルハーブという考え方が暮らしに浸透しているといいます。
健康を保つために日頃からハーブティーを飲んだり、
体に何らから不調を感じたら、お茶や食事に適したハーブや香草などを使って
未病のうちに体の調子を整えていくというものです。
そして、実際に病院へ行くことになったとしても、そう簡単に抗生物質を処方されることは無く、
余程の緊急性が無い限りハーブ療法が行われるのだそうです。
これは、ドイツという国が日々進化し続けている現代の医療だけでなく、
ハーブを使った治療を合わせた医療スタイルを奨励しているからということでした。
このため、医師は全員ハーブの知識を持っているのだそう。
ハーブが取り入れられている理由のひとつには、
抗生物質には副作用があるけれど、
ハーブには副作用がほとんどないため、
安心して使うことができるということが挙げられているようです。
もちろん、体質やその時々の症状によっては、この通りではないケースもあるものの、
安全に使用できるケースの方が多いということ。
日本で言うならば、漢方薬がメディカルハーブに値するかと思うのですが、
利き目が緩やかであることから、
やはり抗生物質を処方される機会が多いように感じます。
私に日本のお薬事情を尋ねてきた方は、
日本人=長寿=健康な暮らしをしている。という想像があったようで、
日本では、どのようなメディカルハーブが処方されるのか、
どのようなメディカルハーブを日常に取り入れているのか、という点に興味を持たれたようでした。
わたくし、お話しをしていて気づくことができたのですけれど、
私たちにメディカルハーブという意識がないだけで、
日本食の中には生姜や紫蘇、ネギなどの和風ハーブがよく使われています。
日本の代表的な飲み物、緑茶もハーブの一種です。
わざわざ意識しなくても既に自然の力を借りて、
日々の健康を保つ暮らしが根付いているのかもしれませんね。
食事が欧米化するにつれて日本人の体内環境も変わりつつあります。
あれやこれやと新しい情報を追い求め、
より良いものを体に取り入れることも良いことだと思います。
ただ、私たちが知っている日本の暮らしを大切にするだけでも、
私たちが思う以上に、自然からの様々な恩恵を受けられるのでしょうね。
“普段の暮らしを丁寧に”これが、何よりのお薬なのかもしれません。