スーパーのレジでお会計を済ませると店員が「1枚どうぞ」と
大きなくじ引きの箱を差し出した。
1000円以上のお買い物で1枚引くことができるそうで、
箱の中に手を突っ込んで1番最初に指先に触れた1枚を摘まんで引き抜いた。
丁寧に糊付けされたくじを店員は慣れた手つきで切り開き、
「コーラ1本です、どうぞ」と冷えたコーラを私に手渡した。
ちょっとしたプレゼントが舞い込み、いい気分でスーパーをあとにした。
コーラを使って煮豚でも作ろうかしら、
と思ったのも束の間、フランスでの出来事を思い出した。
ヨーロッパの急な気候の変化に体が付いていけなかったのか、体調を崩したことがあった。
熱が上がったり下がったりを繰り返し、食欲も落ち、
日本から持参していた薬で乗り切ろうとするも、
思うように快復しない自分に少しだけ心細さを感じていた。
そんな私を心配してくれたフランス人の友人たちが、
お見舞いだと言って持ってきてくれるものが、コーラだったのだ。
始めは、お見舞いのお菓子のような位置づけなのかと思っていたのだけれど、
皆が皆、コーラを持参するものだから「どうしてコーラなの?」と尋ねてみた。
すると、病気の時はコーラが1番なのよ、知らないの?と返された。
知りませんわよ、病気の時はコーラが1番だなんて。
何度、そのようなことを心の中で呟いたことか。
病気の時には食欲が落ちて栄養をとることができないけれど、
コーラ―を飲めばカロリーを摂取することができるとのこと。
カロリーとは言っても栄養ではなく糖分ですわよね?と思うも、
彼らは真顔でそのようなことを言うのだ。
そして、コーラの炭酸が胃をスッキリ爽快にしてくれるのよ、とも言っていた。
何の解決にもなっていないではないか……。と私の心の中は突っ込みの嵐だった。
その場では、お見舞いのお気持ちだけありがたく頂戴し、
コーラは、快復してからお料理に使わせていただいた。
「病気のときのコーラ」は、おまじない的な民間療法なのかと思っていたのだけれど、
医師もすすめる病気の時の飲み物だというのだから驚きだ。
私は病気のときの水分補給はポカリスエットというイメージがあるため、
フランスで購入しようとしたのだけれど、
当時は、これがなかなか手に入れることができなかった。
日本の物を扱うお店には粉末状のそれが置いてあったりもしたのだけれど、
驚くような値が付けられており購入する気にはなれず、
結果、砂糖と塩とレモン果汁で手作りすることとなった。
おかげで、今では急な体調不良でポカリスエットの買い置きがなくても、
自分好みの塩梅でスポーツドリンクを作ることはできるけれど、
目と鼻の先のコンビニで手軽に購入できるのは、やはり、ありがたい。
コーラも色々なお顔をお持ちのようだ。
そのようなことを思い出しながら、小さなハッピーを握りしめ帰宅した。