その夜は、とても眠くて、ベッドに潜り込むと同時に眠りについたはずなのだけれども、
数十分ほどでパチリと目が覚めてしまった。
何とか眠り直そうとしてみたけれど、
そうすればするほど頭の中が冴えていくようで、私は潔く眠ることをやめた。
暗がりの中でスマートフォンを手繰り寄せ時刻を確認すると
午前2時半になろうかとしているところだった。
魔物が出ると言われている丑三つ時だ。
時代劇や小説などに登場する「丑三つ時」という時刻の数え方は日本独自のもので、
陰陽五行の思想がもとになっていると言われることもあるのだけれど、
その真意は明らかにされていないよう。
24時間を十二支で数えるのだけれども、
「子」から始まり、ひとつの干支が2時間を担当する。
その2時間を更に30分ずつの4つのパートに分けて
一番目のパートを「一刻」もしくは「一つ時」と呼び、
次いで二刻/二つ時、三刻/三つ時、四刻/四つ時と呼ぶことで時刻を表す。
だから、丑三つ時(丑三刻)は、丑の担当の第三パートなので
午前2時から2時半ごろまでを指していることになる。
丑三つ時と言えば、お寺の木に藁人形を五寸釘で打ち付ける呪術、
「丑の刻参り」を真っ先に連想してしまうのだけれども、
もとは呪術とは関係のない心願成就のものだったと言われている。
それがどうして呪術になったのか。
そのような素朴な疑問を追ったことがあった。
平家物語や源氏物語の中に、嫉妬心に飲み込まれ、生きたまま鬼神となった
橋姫という女性が登場するのだけれど、
橋姫が初めて丑の刻参りを呪術にした人物だと言われている。
橋姫は、自分から離れ他の女性の元へ行ってまった男性への恨みが
男性の相手となった女性への嫉妬心に変わり、その嫉妬心に飲み込まれてしまう。
そして、その女性を呪い殺したいという理由から、
自分を鬼にしてほしいと京都にある貴船神社の神様に願い続けるのだ。
すると、その様子を見ていた神様から、
姿を変えて宇治川に21日間浸かるよう、お告げを受け実行に移すのだが、
その時の姿というのが、よく物語や映画などで登場する、
白装束を身にまとい、頭に蝋燭や松明を挿し灯したあの姿なのだ。
月明りでもなければ辺り一面漆黒の闇だった時代に、
そのような姿を目撃した人がいたとしたら、
さぞかし恐ろしい思いをしたことだろうと思う。
お告げを遂行し願い通りに鬼と化した宇治の橋姫は恨んでいた女性や、
その家族、その他多くの人々を次々と呪い殺していくのですが、
ある時、狙いを定めた男性が偶然にも安倍晴明と繋がっていたことから、
安倍晴明に封じられたという話がある。
その後の橋姫は宇治川の守り神として、
また、男女の縁や病気、苦しみ、悪癖といった悪縁を断ち切ってくれる神様として、
今も京都宇治川近くの橋姫神社に祀られている。
眠れぬ夜、このような宇治の橋姫が登場する話を思い出しつつ、
再び眠りについたのは、寅四つ時頃だった。
これから紅葉のシーズンで京都観光などのご予定がある方は、
橋姫のことを、ちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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