お餅を食べる機会は、お正月以外にもある。
しかし、この時季に口にするお餅を格別だと感じるのは、
お餅が日本人にとってソウルフードの一つだからだろうか。
年明け早々、そのようなことを思いながら網の上に並んだ丸餅を順にひっくり返した。
遠い時代から祝いの席に欠かせない食べ物として、
また、神様へのお供えものとして大切にされてきたお餅。
腹持ちがよくエネルギー補給にもなることから、
お餅を食べると力が漲ると言われたことをきっかけに、お餅は「力餅」とも呼ばれるようになり、
重労働である畑仕事やその他の力仕事をするときや、
産後で栄養を付けなければいけないときなど、
人々の“ここぞ”という時を支えてくれた食べ物でもある。
江戸時代の武家や、各種大きな店を持つ商家などでは、
自宅で餅つきをしていたそうなのだけれども、
それ以外の家庭では「餅つき」生業としている方々に来てもらい、餅をついていたのだとか。
このように餅つき職人たちによる餅つきスタイルを「引きずり餅」と呼び、
彼らの威勢の良い掛け声は賑やかで年末の風物詩のひとつになっていたようだ。
餅と言えば、古典落語のひとつに「尻餅」という、年の瀬のある夫婦の噺があったように思う。
記憶のほとんどが薄れてしまっているけれど、このような噺だったと記憶している。
近所では引きずり餅の賑やかな掛け声が響いている年末、
ある夫婦の家では、旦那さんがいつも遊び歩いていており、
お餅の用意が出来なかったのだそう。
そのことを嘆く奥さんに旦那さんは、
「餅つきの音だけでも味わうか」と、突拍子もないことを言い出したのだ。
どうやって?その奥さんは思ったに違いない。
すると旦那さんは、夜中になるのを待って、餅つきを生業としている方々に扮し、
威勢の良い掛け声を上げながら奥さんのお尻を叩き、
ペッタンペッタ、ペッタンペッタと餅つきをしているかのような音をご近所に響かせたというのだ。
くだらないこの話を落語家たちが面白おかしく披露して客を笑わせるのだ。
当時の人々にとって餅つきは神様をお迎えするための行いでもあり、
年末を彩るイベントでもあったのだろう。
今では、このような餅つきをするご家庭も減ってきているせいか、
イベント会場なので目にする昔ながらの餅つきは、お正月の賑やかさを感じられたりも致します。
日本人にとってソウルフードである「お餅」、
今年1年を力強く、粘り強く過ごすために縁起と共に存分に味わってくださいませ。
そして、そのときに尻餅の話をちらりと思い出していただけましたら幸いです。