オーガニック食品を扱うお店で、切れかけている調味料をいくつかカゴに入れた。
カゴの中でゴロゴロッと転がりながら右へ左へと移動するビン類をチラ見しながら、店内をひと回りした。
お店に立ち寄る度に増える新商品から定番商品までを目で追いながら、
健康のためにと手に取る人も増えているのだろうけれど、
アレルギーや病などの理由から食事制限などをしなくてはいけない人にとっては、
安心して口にできるシンプルな食品というものは、
周りが思う以上に、非常にありがたいものだと思った。
無農薬の手書きのポップが揺れる大きな木箱の中には、
鮮やかなオレンジ色をしたニンジンが山積みされていた。
そばに近寄っただけで感じる甘くて爽やかなニンジンの香りは、
吸い込むだけでも十分に体が元気になるような気がするのだから不思議だ。
ニンジンの外にまで溢れ出してしまうほどの生命力を宿している証なのだろう。
美味しそうなニンジンに後ろ髪を引かれつつ、買い物袋を手に帰路についた。
ニンジンと言えば、学生の頃に観た香港映画に出てきたキャロット・ラペが、
それはそれは美味しそうに見えてニンジンを大量に買い込んだことがあった。
アジアの香りとフランスの香りが混ざり合うアーティスティックな映像美の中で
どういうわけか、私はストーリーとは関係のないキャロット・ラペに釘付けになったのだ。
誰が出ていた、何という作品だったかまでは覚えていないけれど、
ニンジンさえもがキャスト同様にいい味を出していたのだと思う。
キャロット・ラペは、すりおろしたニンジンに、リンゴ酢とオリーブオイル、塩とコショウ、
お好みでハーブやレーズン、フルーツやナッツ、ツナなどを加えて混ぜ、
あとは冷蔵庫で冷やすだけの簡単なサラダだ。
食べる人の好みでアレンジがしやすく、使い勝手の良い一品は、
ほんのり甘くて爽やかなフランス家庭料理のひとつだ。
そう言えば、本場の方々が作るキャロット・ラペは想像していたものよりも太く感じたこともあった。
粗くすりおろしたニンジンは、表面がザラッとしており、見た目もイマイチなのだけれど、
その方がニンジンに調味液がしみ込んで馴染むため、
細すぎたり、薄すぎたりするよりも、ある程度の厚みと太さがある方が、
ニンジンの味も楽しむことができて美味しいのだと、フランス語の恩師が話していた。
だから細切りの繊細でオシャレ感漂うキャロット・ラペを目にすると、
私の頭の中で恩師の豪快な「適当にすりおろすのよ、出来るだけ大胆にね」という声がループする。
最近、ゆっくりと映画を観る時間を作れずにいるのだけれど、
好きなお酒と自分好みのキャロット・ラペをお供に、
昔好きだった映画をじっくりと味わえたらいいなと思う今日この頃だ。