この冬は何度、寒波が来るのでしょう。
道端の日陰に並べられていた手のひらサイズの溶けそびれている雪だるまを横目に、
そのようなことを思ってから随分と経ったように感じるのだけれど、
一向に暖かくならない日々を前に春への想いは募るばかりです。
春と言えば、冠婚葬祭の「冠」の行事が多い季節ですが、
改まって「冠」の行事とは?と尋ねられますと、どう答えたらいいのやらと思うこともあるものです。
この機会に、柊希と一緒に知識ボックスの整理をしてみませんか。
冠婚葬祭は、日本に古くからある儀式を表しておりまして、
「冠」は元服(げんぷく)を、「婚」は婚礼を、「葬」は葬儀、
「祭」は先祖をまつることの全般を指し、法事やお盆、お正月などのことです。
そして、今回取り上げている「冠」ですが、
元服(げんぷく)と言われましても私たちには馴染みがないものですので、
現代風に言い替えますと男性の成人式のようなものです。
女性の場合は元服(げんぷく)とは言わず「裳着(もぎ)」と呼ばれる儀式がありました。
元服や裳着の儀式にも段階があったように、
現代でも成人式以外にも大人の仲間入りをするまでには多くの段階があります。
出産祝いに始まり、お宮参り、初節句に七五三や入学、卒業、就職などがありますが、
大人になってからも転勤や退職、長寿、その他、新しいステージへ進むための節目があります。
「婚」「葬」「祭」に属さない、これらの節目のお祝いごとの全てが「冠」であり、
「通過儀礼」とも呼ばれます。
冠婚葬祭の「冠」を簡単におさらいしてみたのですが、
これからのシーズンは「冠」の行事、お祝いが多いことも確認できたかと思います。
そこで使用頻度も多くなる「袱紗」のお作法も、この機会に簡単に確認しておきませんか。
【袱紗は何故使われているの?】
もともと袱紗は、大切なものに、ホコリや汚れなどが付着しないよう、
大切なものを入れた箱の上に、ふわりと被せていた風呂敷の様な布だったのだそう。
これが、時代の流れの中で、
贈り物を届けるまでの移動中に贈り物にホコリや汚れが付着しないように使われるようになり、
更には礼節を重んじる際、その場に相応しい仕様に変化し続け、
現在の袱紗スタイルに落ち着いています。
お渡しするものは、先方の方の人生の節目に触れさせていただく大切なものですので、
袱紗は、先方の方と、その節目に対する礼儀として使うものと言えるかと思います。
【袱紗の種類は?】
袱紗には大きく分けて4種類あります。
黒塗りのお盆に掛ける亀房付きの「掛け袱紗」。
亀房というのは、日本版のフリンジと言えばイメージしていただけますでしょうか。
そのトップの部分に亀があしらわれたものです。
次に、金封を包む「小風呂敷(手袱紗)」、
簡易版で板状の切手盆(祝儀盆とも)とセットになった「台付き袱紗」、
金封を挟み入れるお財布タイプの「挟み袱紗(はさみふくさ)」などがあります。
お好みや使い勝手に応じて、大人のたしなみとして、一つ持っていると良いかもしれません。
【袱紗の色は何色を選ぶと良いかしら?】
これは、私の個人的な感覚ではあるのですが、
袱紗は頻繁に使うものではないので、シーン別に揃えるよりも、
どのようなシーンにも対応できるものを一つ持っておく方が何かと便利のような気が致します。
このように感じられる方は、
冠婚葬祭全てに兼用できる袱紗カラーである紫色を準備しておくと便利です。
もし、しっかりと色を使い分けたいという方は、
慶びごとでは、赤、朱、エンジ、紫色などのものを、
弔事では、紺、藍、グレー、紫色をお好みで準備しておくとよいかと思います。
ただ、現在は礼節を重んじる度合いもシチュエーションによりけり。
慶びごとに関しては、TPOを踏まえた上で、
華やかさや遊び心を添えた袱紗を用いても失礼に当たらない場合もありますので、
基本を押さえた上で臨機応変な対応を。
【お祝いの包み方は?】
今回は「冠」の行事の際のお話ですので、ご祝儀などの包み方です。
1、まず、袱紗をひし形になるような向きで広げ、ご祝儀袋を袱紗中央より少しだけ左の方へ寄せぎみに置きます。
2、左側の角を中央に向けて折り込みます。
3、上部の角を中央に寄せるようにしてたたみ、次部の角も下から中央に向けてをたたみます。
4、最後に、少し多めに残っている右側の角を中央へ折り、余った布は裏側へ折り返します。このとき、左側のラインの上下に小さな三角形ができるくらいが美しい包み方です。※この、右と左を入れ替えた逆バージョンは、お悔やみの際の包み方です。
【渡す際の袱紗の扱いは?】
ご自宅へ伺った場合で、
黒塗りのお盆に掛ける亀房付きの「掛け袱紗」を使う場合は、
お盆にご祝儀袋をのせ亀房つきの袱紗をかけてお渡します。
小風呂敷(手袱紗)に包んで持参した場合で、
お盆の類が無い場合は、お渡しする方の前で袱紗を広げ、
ご祝儀袋をお渡しする方の方へ向けて両手で手渡します。
切手盆(祝儀盆とも)を使う場合は、目の前で袱紗を開いて金封を取り出し、
袱紗から外した切手盆(祝儀盆とも)にご祝儀を乗せて差し出しますが、
上に向けるお盆の色を間違わないように注意し、
ご祝儀袋は必ずお渡しする方の方を向けて、台の上を滑らせるようにして差し出します。
切手盆(祝儀盆とも)の色は、慶びごとの時は赤色を上に向け、弔事では緑色を上に向け、
滑らせる際には、名刺交換をイメージしてみてください。
金封を挟み入れるお財布タイプの「挟み袱紗(はさみふくさ)」を使う場合には、
袱紗そのものが切手盆(祝儀盆とも)の代わりにできるくらい
しっかりとしているかと思いますので、金封挟み袱紗を切手盆(祝儀盆)のように使います。
例えばパーティー会場のような場で受付の方にお渡しするような場合は、
お盆の類が無い小風呂敷(手袱紗)を使うときと同じように、
受付の方の前で袱紗を広げ、ご祝儀袋を受け付けの方の方へ向けて両手で手渡します。
このような場では混雑していたり、芳名帳などへの記入をお願いされたりと忙しいため、
気付かないうちに事務的な動作が出て、片手で渡してしまう方がいらっしゃいます。
両手で渡している方の所作は、それだけで美しいものですので、
是非、ひと呼吸おいて両手でお渡ししてみてくださいませ。
誰かにとっての大切な節目の瞬間に立ち会うことができることも
幸せなことのひとつだと思います。
何気ない所作で、華や想いを添えてみてはいかがでしょうか。
冠婚葬祭の「冠」と「袱紗のお作法」の脳内チェックにお付き合いくださった皆様、
ありがとうございます。
今日も元気いっぱい、口角をきゅっと上げて、いってらっしゃいませ。