横断歩道で信号待ちをしながらスマートフォンを覗き込み、
届いているメッセージのいくつかに返信をした。
指先がいつもしているように勝手に動き、言葉を次々に漢字変換していく。
その軽やかな指さばきに妙に感心していると青信号のメロディーが耳に届いた。
横断歩道を渡りながら、この変換機能は便利で、ほんの少し恐ろしい代物だと思った。
ご丁寧に、考えられる文字変換の全てを表示してくれるものだから、
知っているはずの、分かっていたはずの文字変換までも、
「あれ、どちらだったかしら」と一瞬、思考が立ち止まるのだ。
もの言わぬ変換機能に対して、「この、迷わせ上手っ!」そのような突っ込みを入れて気を紛らわせてみるのだけれど、
内心、自分の頭の中の語彙が、重ね合わせた手の平の隙間から零れ落ちていっているような気がして、
妙な気持ちが胸の内側にもやっと広がったりもする。
その日、私の思考が一瞬立ち止まったのは、「下りる」と「降りる」。
何も考えなければ、きっと間違うこともないと思うのだけれども、
この「一瞬」という間が、頭の中をシャッフルしてしまうことがあるのだ。
今回は、この使い分けを簡単に言葉にしてみたいと思っております。
お時間ありましたら、のんびりとお付き合いいただけましたら幸いです。
今回のように、同じ発音で、同じような動作を表す言葉の使いどころで迷ったときには、
対義語を確認してみるというチェック方法があります。
「下りる」の対義語は「上る」ですので、
「上ることができるもの」から「下りる」シチュエーションを想像できる場合に、
「下りる」を使うと良いのです。
例えば、階段は上ることができるので「おりる」際には「降りる」ではなく「下りる」を使い、
車庫のシャッターも上げ下げができるものなので「降ろす」ではなく「下ろす」を使うという具合に。
次に「降りる」の対義語は「乗る」ですので、
「乗ることができるもの」から「降りる」シチュエーションを想像できる場合に、
「降りる」を使うと間違いがないかと思います。
例えば、バスや電車、自転車に自動車、飛行機やエスカレーターなどは、
「乗る」という言葉が使われますので、「下りる」ではなく「降りる」を使うという具合に。
日常の中でふと、変換機能の罠に忍び寄られてしまったなら、
対義語チェックで軽やかに罠をかわしてみてくださいませ。
そして、「下りる」と「降りる」で立ち止まったときには、
上ることができるものから「おりる」場合は「下りる」を。
乗ることができるものから「おりる」場合は「降りる」をご選択あれ。