シューズボックスの中を整理していると、
昨年の夏に使い残してしまったベランダ用の蚊取り線香が見つかった。
思わぬ場所から出てきたそれに、どうしてここに?と思いながら缶の蓋を開けた。
中からは深緑色をした渦巻きが顔を出し、
パンチが効いた、それでいて日本の夏を思わせる、あの個性的な香りが広がった。
特別な方法で保管していたわけではないのだけれど、
その状態の良さから日本製だからだろうかなどと思った。
実は私、この蚊取り線香を英国まで送ってもらったことがある。
当時住んでいた場所は程よく自然豊かな場所だった。
朝起きてカーテンを開けると、窓辺に野生のリスが居るなんてことも頻繁にあった。
その可愛らしさに思わずテンションが上がり、窓を開けて手を差し出したい衝動に駆られるのだ。
しかし、リスに噛まれると病気をもらってしまうから
可愛くても絶対に窓を開けたり、手を差し出してはいけないと、
野生のリスとの対面の機会が訪れる前に、耳にタコができるほど注意されていたこともあり、
いつも窓越しのコミュニケーションだった。
そのような環境だったこともあり、虫に刺されることが多かった。
もちろん海外にも似たようなアイテムはあるのだけれど、これが全くと言っていいほど効かなかった。
BBQをする度に足を膨れ上がらせ、痒みと闘わなくてはいけなかった私は、両親にSOSを出した。
豪快な母は、これくらいあれば足りるでしょうと、
キンチョーの蚊取り線香がたっぷり入った巨大缶を確か4~5缶ほど送ってきた。
いくらなんでも多すぎたため、お世話になっていた方々にお裾分けしたのだけれど、
これが、ワンダフル、アメージング、マーベラスと、想像の域を遥かに超えるほどの大絶賛だった。
今度日本から送られてきたら私に売ってちょうだいと言う方もいたし、
キャンプか何かの時に日本の蚊取り線香の威力を体験したと言うチビッ子には、
日本人は頭がいいよ、すごいよと興奮気味に言われたりもした。
私からしてみれば、確かに効くとは思うけれど、そこまで感動する?と思った出来事でもあった。
あの個性的な香りについてのリアクションはあったのか、なかったのか、
もう覚えてはいないけれど、キンチョーの蚊取り線香を手に取る度に、これは効く。
そう思ってしまうのは彼らの興奮と感動が、私の記憶のどこかに残っているからに違いない。
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