この時季は、掃除を終え、ハチミツを入れたミルクティーでひと息ついていると、
開け放っている窓から入ってくる風が季節の香りを運んでくる。
春の香りも日々異なっており、その全てを記憶しておくことができないことを、
少しばかり惜しく思うことがある。
記憶しておけないというのなら、今、思いっきり味わいきってしまおう。
欲張りでズボラな私は、そのように思ってしまう。
ほんのりハチミツが香るミルクティーと柔らかい日差しのにおいに包まれていると、
そこに混ざる昨日までは感じなかった甘い香りが、ふわり風に乗って届いた。
何だろう、この甘く瑞々しい香りは。
知っている香りだけれどもすぐには、その正体を思いだすことができず、
ヤキモキしながらミルクティーを味わっていると、カロライナジャスミンの香りだということに気付いた。
きっと、近所のどこかで一斉に開花したのだろう。
ジャスミンと言えば、真っ先に白い花をイメージしてしまうのだけれども、
春から初夏にかけて咲くジャスミンと言えば、
春の日差しに艶やかな深緑色の葉っぱと黄色い花が映えるカロライナジャスミンだ。
蔓が長く伸びる性質から、壁やフェンスなどに絡ませるようにして育てているところを目にすることが多いように思う。
その可愛くて素敵な香りを放つカロライナジャスミンの姿からは想像し難いのだけれど、
別名イエロージャスミンとも呼ばれるカロライナジャスミンは毒性が強く、注意が必要な花でもある。
いつのことだったか覚えていないくらい遠い日の話なのだけれど、
カロライナジャスミンの花をハーブティーのようにして飲んだ方が、
食中毒で入院したというようなニュースを見聞きしたことがある。
そのとき、この方は運が良かったのだろう、と思った。
黄色いカロライナジャスミンは、その全ての部位に毒性があるため、
誤って口にすれば神経麻痺や呼吸麻痺を起こすと言われている。
甘い香りに誘われて子どもたちが花の蜜を吸って遊ぶことがあるけれど、
このカロライナジャスミンは注意が必要だと伝えておくべき花のひとつだろう。
もちろん、私たちが口にするジャスミン茶に使われているジャスミンは、別物。
カロライナジャスミンは、その香りがジャスミンの香りに似ているということから
その名が付けられたという話があるのだけれど、
この紛らわしさが時に人を油断させてしまうことがある。
口にしなければ害はない植物なので、
カロライナジャスミンを愛でる際には、可愛さと甘い香りに誘われて誤って口にしないようご注意あれ。
その日の私はカロライナジャスミンの借香に癒されながら、しばし春を堪能した。
本日も、ほんの少しの好奇心を胸に口角あげてまいりましょ。