ふらりと立ち寄った和雑貨店の一角に、ひと足早い線香花火が置いてあった。
木箱に入れられているそれを手に取ると、
火薬が浴衣の柄のようなシックな和紙に包まれた花火がお行儀よく納まっていた。
毎年限定数で取り扱っている線香花火で、入荷すると3、4日で完売してしまうのだそう。
そして興味深かったのは、線香花火は数年寝かせると材料が馴染み、
火を灯したときに美しい姿を見せてくれるという話。
近年、熟成した食材が人気だけれど、花火界にも熟成のひと手間で変わるものがあるようだ。
私がこれまでに楽しんだ線香花火の中に熟成させたものはあっただろうか。
そのような事を思いながら木箱の横に添えられたプライスカードに視線を落とし、
多分、無いな……。少なくとも自分で購入した花火の中には無い。そう思った。
コンビニなどで目にするような、ポップな花火と一緒に詰め合わせられた線香花火も夏の風物詩だけれども、
こうして線香花火だけが特別扱いされたものも日本の夏らしくて、いいものだ。
前者が「子どもの夏」であるならば、後者は「大人の夏」である。
今年は、大人の夏を彩るアイテムとして木箱の艶やかな線香花火を用意しようと思った。
そう言えば、私たちが線香花火と呼ぶものは、地域によって、その慣れ親しんでいる姿が少々異なるという話がある。
線香花火の歴史を覘くと、竹ひごなどの先端に火薬が剥きだしのタイプが親しまれた後、
素材の入手環境の変化によって火薬部分を和紙で包むタイプが登場したのだとか。
火薬部分が剥きだしのものは、花火を持つ手の振動が火薬部分に伝わりにくいため、
線香花火を長く眺めていられるように思うけれど、
和紙で包まれているタイプは線香花火の儚い美しさが、より際立つようにも思う。
友人たちとBBQを楽しみ、夜のお楽しみとして花火をしたときのことだ。
線香花火を握り、誰が一番最後まで花火を咲かせられるかという、お決まりのゲームをした。
すると、その中の一人が、何度やっても必ず最後まで残るため、皆で不思議に思っていると、
線香花火を長時間楽しむためには、持ち方にコツがあると解説し始めた。
線香花火は、花火の先端に出来る火の雫をできるだけ落とさないことが必要になるのだけれど、
これは、火の雫の表面を出来るだけ広範囲、和紙にくっつけられるか否かがポイントなのだそう。
そして、火の雫と和紙の接触面積を広げるためには、
線香花火を垂直に垂らした状態で持つのではなく、鉛筆やお箸を持つようなイメージで持ち、
振動を与えずに、そっと見守ると良いと言った。
何度か実践するうちに皆が徐々にコツを掴み、
線香花火の移り行く表情の変化を、線香花火の一生を、最後まで楽しむことができるようになった。
今年は、線香花火を鉛筆持ちして線香花火の美しさをご堪能あれ。
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