遠方に住む友人から小包が届いた。
箱を開けると、一番上に秋を感じさせるような色合いの封筒が乗せてあった。
いつも丁寧に一筆添えてくれる友人の心遣いに和ませてもらいつつ、封を切った。
その瞬間、ふわりと金木犀の柔らかい香りが私の周りに広がった。
文香を上手に使う友人なのだけれど、その時の金木犀の香りは人工的なものが一切感じられず、
まるで金木犀の木の下にいるような不思議な感覚になった。
あまりにも心地良かったため、手紙を開かぬまま、しばらくその香りを吸い込んだ。
お礼を伝える際に、金木犀の文香のことを伝えるとハンドメイドだと友人は言った。
話を聞くと、ご親戚のお庭に植えてある金木犀が満開だったそうなのだけれども、
タイミングを計ったように一斉に開花したこともあり、
香りが少々強すぎるということで大量にいただいたのだそう。
そのいただいた金木犀の枝木も、花瓶に生けきることができないほど大量だったため、
一部の枝木は、密封できるアルミ缶の中に便箋やポチ袋などと一緒に入れ、しばらく置いてみたというのだ。
ハンドメイドの文香と聞くと、香水やアロマオイルをティッシュやコットンに含ませたものを、
文香に使う和紙などと一緒に、箱やジップロックなどに入れて香りを移す方法を思い浮かべるけれど、
友人は、これをフレッシュな金木犀で試してみたのだ。
さすがに、生花では上手く香りが定着しないのではないか、
生花の生臭さが残ってしまったりするのではないか、という疑念はあったそうなのだけれども、
4、5日ほど経ってから缶を開けてみると、金木犀の花は、既に咲き終えて茶色に変色していたけれど、
その甘い香りは、程よく便箋やポチ袋に移っていたという。
「金木犀は贈ることができなかったけれど、ちょっといい気分になったでしょ」と笑う友人に、
私は、「なった、なった、すっごくいい気分」と興奮気味に答えた。
その後、フレッシュな香りを含ませた文香、名刺香を作ってみたくなり、
割と香りが強いバラを使ってみたのだけれど、私の挑戦は失敗に終わった。
文香というのは、先人たちから始まった粋な日本文化のひとつである。
紙が貴重だった頃は、手紙を送ることができるのは限られた人だけだった。
手紙を送ることができた人たちにとっても、手紙が特別なものであることに変わりはなく、
季節の草花を添えたり、お香を染み込ませた紙や、練香を包んだものを添えるなど、
単に手紙を送るだけではなく、そこにありったけの想いをアイデアで盛り込んでいたのだろう。
相手を思う温かい気持ちは、いつの時代も優しく伝わるものだと思うこの頃である。
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