今年も色香を纏ったようなクチナシの花の香りに、胸の奥をぎゅっと掴まれる季節がやってきた。
クチナシの花は、春の沈丁花、秋の金木犀と肩を並べて日本の三大香木と言われており、夏を告げる花でもある。
こうして辺りを見渡してみると、至る所に夏の知らせが点在していることに気が付く。
自然は、私たちが使っているような「言葉」は使わないけれど、いつだって「突然」というような無粋なことはせず、何かしらのサインを送ってくれているように思う。
以前、ベランダでクチナシを育てたことがある。
実家の庭できれいに咲いていたものを私の気まぐれで連れ帰ったのだ。
クチナシが急な引っ越しに戸惑ったのか、根を大地に直接張ることができない鉢植えという新スタイルに戸惑いを感じたのかまでは分からないけれど、連れ帰った翌年は一輪も花を付けずにクチナシの季節が過ぎた。
悪いことをしてしまったと思いながら冬を越し、マンションのベランダで迎える2度目の夏がやってきた。
すると今度は、「これが2年分の花よ、存分にご堪能あれ」と言ってるかのように、次々と白い花を晩夏が過ぎる頃まで咲かせ続けた。
初めは嬉しくて咲いた花を数えていたのだけれど、覚えていられないほどの数となり、その年はベランダも家の中も、色香あるクチナシの香りがホームフレグランスとなった。
しかし、その年の花を最後にクチナシの木は土へと帰っていった。
開け放った窓から微かに流れ込んできたクチナシの香りで、あの年の贅沢な夏を思い出しながらお茶でもとキッチンに立った。
少し蒸し暑く感じたため、緑茶を氷で淹れることにした。
ボウルに重ねたザルに少し多めの緑茶葉を入れ、その上にマグカップ一杯分ほどの氷を乗せて、氷が自然に溶けて水になり、茶葉の中を通ってボウルに落ちるまで待つ。
室内温度によって多少異なるけれど、時間にして15分から20分といったところだろうか。
ぽとり、ぽとりと落ちる若草色をした氷だし緑茶を眺める時間があれば、それはそれは優雅なリラックスタイムとなるところなのだけれど、
生憎バタバタとしている私は、この状態のままキッチンに放置し、20分で出来ることをしていることがほとんどだ。
この日も氷が溶けたであろう頃を見計らってキッチンへ戻り、氷で淹れた緑茶をガラスポットに移し入れ、いただいた。
冷たすぎず温すぎないひんやり加減のそれは、渋みや苦みとは無縁で、ほんのり優しい甘味が体中に染み渡っていく。
私の淹れ方は慌ただしくて風情の欠片もないけれど、氷だしの緑茶もたまにはいいものである。
皆さんは、どのような夏をお過ごしでしょうか。
まだ夏らしいことは何も……と言うかたは、お茶を氷で淹れてみるのはいかがでしょう。
暮らしを楽しむ何かしらのきっかけにしていただけましたら幸いです。
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