時折、口にする和菓子の美味しいこと。
その中でも桜餅やお月見団子など、季節の行事と結びついているものとなると、美味しさが数割ほど増すように感じられるものだから、気が付けば、ひと口を普段よりもじっくりと味わっているように思う。
冬の寒さが深まり始める12月から1月の和菓子の代表格と言えば「花びら餅」である。
私は、お正月に口にする花びら餅が密かに好物である。
花びら餅という和菓子は、
耳たぶほどの柔らかさを持った白いお餅(求肥を使うところも)を、餃子の皮ほどのサイズに丸く平らに延ばし、小豆の煮汁を使って赤く染めた菱形の薄いお餅を敷き、その上に甘く煮たゴボウの千切りを1本と白味噌の餡にのせて半分に折ったもの。
白いお餅から赤いお餅が、透けるか透けないかという塩梅で薄っすらと透けて見えるところは、和菓子ならではの奥ゆかしさだ。
そして、お餅の両端から見える細いゴボウは、「これは何ぞや?ゴボウ?いや、まさかね」と、ちょっとした好奇心を刺激するようにも思う。
これまで、花びら餅を目にする機会が無かった方がこのような説明を耳にすれば、和菓子にゴボウや味噌だなんて訳が分からない謎の和菓子、というイメージが湧いてしまいそうだけれど、簡単に言うならば、「甘じょっぱくて、一線を超えると癖になる和菓子」ではないだろうか。
この花びら餅のもとは平安時代まで遡るといわれている。
なんでも平安時代の宮中で、元日からの3日間、新年を祝いながら健康や長寿を願って色々な硬いものを食べる「歯固めの儀式」と呼ばれる行事があったのだとか。
そして、その行事の中で出されていた硬いお餅のことを「菱葩餅(ひしはなびらもち)」と呼んでいたそようで、このお餅が現在の花びら餅のオリジナルだという。
この行事やお餅は時代を経る中で、省略されるなどして変化していき、最後は宮中雑煮というお餅の中にお雑煮の具材を包んだものが配られるようになったそうで、これが現在の花びら餅のスタイルに近いようだ。
お椀や汁を必要としないお雑煮ということで、お雑煮に入れられるはずのお餅の中に、白味噌に見立てた白味噌餡を入れ、歯固めの儀式で食べていた硬いものの代表としてゴボウが入れられているという。
硬いものの代表としてゴボウが選ばれている理由の中には、土の中にしっかりと根を張るゴボウの性質から「家(家庭)の土台がしっかりとするように」という願いと「健康や長寿」を願う意味が込められている。
私は冒頭で花びら餅のことを好物だと言ってしまったけれど、正直なことを言えば、初めて花びら餅を口にしたときは、この食材の組み合わせの斬新さの方が勝り、美味しいのか否か判断し難いという感想を抱いた。
しかし、果たしてどちらなのだろうかと思いながら機会がある度に口にしていたところ、いつの間にか美味しいと思うようになっていた不思議な和菓子である。
そして、組み合わせもさることながら、汁なしのお雑煮を作って配ろうと企画し実践した先人たちの思い切りの良さに驚く一品でもある。
好き嫌いが分かれる一筋縄ではいかぬ和菓子のような印象もありますけれど、口にする機会がありました折には、今回のお話をちらりと思い出していただき、縁起物ということで楽しまれてみてはいかがでしょうか。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/