へその緒って英語ある?
横断歩道ですれ違った方々から聞こえた声である。
日常会話の中では、登場回数が多いとは言い難いワードだったこともあり、正しく聞き取れていたのか自信はないけれど「へその緒」という英単語はあるのだろうか?と私も声の主に便乗して思った。
そもそも、へその緒を取っておく国は日本くらいだと聞いたことがある。
外国で生まれたという知人からの話なのだけれど、知人のお母様が出産するにあたり、子どもが生まれたらへその緒を持ち帰りたいという要望を現地の医療スタッフに伝えたところ、理由を事細かに質問され、非常に気味悪がられたというのだ。
最近では、へその緒を渡されても扱いに困るという理由から、日本でも受け取らない方もいらっしゃるそうで、へその緒の扱いは両親の判断に委ねられることも増えていると聞くけれど、日本には、へその緒を大切に保管するという不思議な風習がある。
へその緒は、正しくは臍帯(さいたい)と呼ばれており、母親の胎盤と赤ちゃんを繋いでいるもので、その役割は、母親から赤ちゃんへ栄養や酸素を送るなど重要なものである。
この重要な役割を持つへその緒を保管し始めたのは、江戸時代の頃からだと言われており、日本には非常に多くのへその緒に関する言い伝えが残っている。
その中には、根拠はないけれど、子どもが大病を患った際には、その子のへその緒をすり潰して粉末にしたものを薬の代わりに飲ませると良いとか、
子どものへその緒を無くしてしまうと、子どもの体が弱くなるだとか、夜泣きがおさまらない子どもにへその緒をなめさせると落ち着いて泣き止むだとか、へその緒を持っていると魔除け・厄除けになるだとか。
他にも、自分がこの世を去るときに子どものへその緒を棺桶に入れてもらうと、閻魔様に会ったときに、このへその緒を見せることができるため、子どもを産んだことを報告することができるなど、様々な言い伝えが残っている。
私の母は、時代もあったのだろうけれど残しておく派。
そして、私が小学生の低学年の頃だったと記憶しているのだけれど、初めてそれを私に見せてくれたことがあった。
しかし、見せて!見せて!と前のめりに食いついたけれど、煌びやかな見た目をしているはずがないそれを目の当たりにし、リアクションに困ったことを薄っすらと覚えている。
その後も、人生の節目のようなタイミングで手渡されそうになったのだけれど、どうしても受け取る気になれず、今も実家の、母の引き出しに保管してあるはずである。
不意に聞こえた「へその緒」というワードから、小学生の頃の出来事をぼんやりと思い出し、心の中で思うのである。
母上よ、見せ時を誤ったのではなかろうか……と。
生え変わった歯を大切に扱う国は多々あれど、へその緒は日本だけ。
何とも不思議な風習である。
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