その日は、年に数回しか使わない小路を選んで目的地を目指すことにした。
まっすぐに伸びた小路に人の姿は無かったけれど、建物の隙間を縫うようにして差し込んでくる日差しと、それによって生まれる日影とのコントラストは、いつ見ても味がある風景で、思わずスマートフォンのカメラを起動させた。
歩きながら風景を切り取っていると、100メートルほど先にある桜の木に、たくさんの花が付いていることに、スマートフォン越しに気が付いた。
桜の木の傍まで行くと、日当たりが良い場所なのか、想像以上に開花しており驚いた。
少し早めのお花見気分を味わっていると、桜の木の下に開花したばかりに見える桜の花がいくつも落ちていた。
あまりにも不自然な落ち方をしていたものだから、誰かに悪戯でもされてしまったのだろうかと心配しかけたのだけれど、近くにいたスズメを見つけて謎が解けた。
スズメはくちばしが太くて短いため、他の鳥たちのように咲いている花の中にくちばしを差し込んで蜜を吸うことができないと聞いたことがある。
そのような事情を持ったスズメたちだから、まずは、桜の花をくちばしで啄んで切り落とし、落ちた花の蜜部分を食べるという方法で桜の蜜を味わっているのだとか。
このことを知らなかった頃の私は、春の陽気に誘われたスズメたちが桜の花で遊んでいるのだろうと思っていたのだけれど、
そうではないと知ってからは、不自然に落ちている桜の花のかたまりを見つけると、スズメたちのデザートタイムを想像し、気持ちが和らぐのである。
その日も、たらふく味わった後のような桜を見つけ、これも春ならではの風景かと思った。
確か七十二候に、雀たちが巣を作り始める頃を指す期間があったはず。
帰宅後にそのようなことを思い出し、手帳をぺらぺらと捲ってみたのだけれど、「雀始巣 (すずめはじめてすくう)」は3/20~3/24頃とのことで、気付くのが少し遅かったようである。
しかし、私たちにとって身近な存在でもあるスズメたちが子育ての準備をはじめた頃であることに変わりはなく、食欲旺盛な時季であることも頷くことができるように思う。
そう言えば、誰かがスズメは害鳥だと言っていた。
理由は、秋になるとスズメが稲穂を食べてしまうからなのだとか。
しかし、一方でスズメは益鳥だとも言われている。
こちらの理由は、年に2回から3回ほど巣作りと子育てをするスズメたちは、この時期になると稲に悪さをする害虫を食べてくれるからなのだそう。
しかし、「稲穂を収穫前に食べられてしまったのでは、こちら(人間)が困る」と言ってスズメを駆除した国や地域では害虫が増えた結果、収穫量が落ちたという話が、新旧いくつも残されているともいう。
私は害虫を駆除してくれたお礼に、スズメにも少しだけ稲穂を分けてあげてもいいように思うのだけれど、そう思うのは、稲を育て上げ続ける苦労や喜びといった経験をしたことが無いからなのだろうかと思ったりもする。
とは言え、自然界のバランスは絶妙な塩梅で保たれているようにも思うから、やはり、持ちつ持たれつであることを忘れてはいけないように思う。
当たり前のことをありがたいと感じる機会が増えているこの頃ということもあり、そのようなことに思いを馳せてみたりしながら、着々と移り変わる季節を感じた日。
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