窓を開けると、梅雨特有の、湿った土の匂いと濡れたアスファルトの匂いが混ざった匂いがした。
この匂いが好き!とテンションが上がるような匂いではないのだけれど、この時季にしか感じられないことを体は覚えているようで、この感覚が、今年もそろそろ折り返し地点だと知らせてくれた。
早すぎやしないかと思うのは毎年のことだけれど、今年はゆっくりと春を感じることなく気が付けば夏になっているように感じる日も、ちらりほらりと。
このままでは、春も梅雨も無かったことにしてしまいそうで、慌てて梅雨の楽しみをかき集めている、この頃である。
この時季は「あじさい寺」の名で知られている鎌倉の長谷寺へ足を運びたくなるのだけれど、今年は、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、あじさい路での紫陽花鑑賞は事前申込みが必要なのだとか。
更には、思うように足を運ぶことができない方々のために、紫陽花の開花状況を収めた映像をYouTubeなどで公開するという。
春先頃、奈良の東大寺で、大仏様の様子を動画サービスニコニコ生放送を通して24時間中継し続ける取り組みが行われ、リモート拝観なるものが登場したけれど、お寺の在り方も時代とともに変化しているのだと感じる話題のように思う。
そのようなことを思いながら精油の小瓶を拭いていたのだけれど、手にしていたベチバーを素焼きのアロマプレートの上に一滴垂らした。
そこに、定番の組み合わせではあるのだけれど、レモングラスの精油を一滴重ねて窓際へ。
ベチバーという精油は、古くからインドで使われていた香りだと言う。
深い甘さとスモーキーさが混ざったオリエンタルな香りをしているのだけれど、そこにレモングラスを合わせると、南国を思わせるスパにいるような雰囲気が漂うのだ。
ベチバーの効果としてよく目にするのは、気持ちを落ち着かせ、体内の様々な炎症の緩和や食欲不振の改善などだろうか。
香りの好みは、体調や気候などによって変わることがあるため、私はその時々で自分が心地良いと感じる香りを楽しむという単純なスタイルなのだけれど、ベチバーは、久しぶりに手にとった香りである。
精油と言えば樹、花、葉などから採ることが多いけれど、ベチバーデビューをしたその日、ベチバーは植物の根から抽出すると聞き、その珍しさが手を伸ばすきっかけとなった。
他にも、インドではベチバーの根を日差し避けとして窓際などに吊り下げることがあることや、日差し避けと同時に虫除けの効果もあることなども教えていただいたのだけれど、一番興味深かったのは「ベチバーの香りは雨の香りだ」という話だ。
同じ精油でも精油を採取した土地や、その時の気候などによって香りが変わってくるのだけれど、ベチバーの精油は根から抽出しているため、土地やその時の気候に加えて、その土地に降った雨の匂いを吸い上げている根ということで雨の匂いを内包しているかもしれないというのだ。
もちろん、そのような確証はないそうなのだけれど、製油を楽しむ際にはベチバーに限らず、そのようなことを想像してみると、香りの楽しみ方も広がるし、自然の恵みを含んだ一滴だとより感じられるのではないだろうかという話をしてくださったのだ。
単純に香りを楽しんでいた私の世界が、少し広がった瞬間だったように思う。
ベチバーは入浴剤や石鹸などの香りに使われていることもあるので、ベチバーの名を目にする機会がありました折には、遠い場所の雨の匂いや景色を想像して楽しんでみてはいかがでしょうか。
また、そのような出会いが無いという方は、製油売り場などでベチバーの香りに触れてみるのも一興かと。
ほんの少し、見ている世界や感じているが広がるキッカケにしていただけましたら幸いです。
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