栞代わりに使っているポストカードに描かれているのは、とてもキュートなカエルだ。
一丁前に、頭にはゴールドの王冠を、右手(右前足)には美味しそうなパイが乗った皿を乗せてポーズを決めている。
表情を作る個々のパーツのみを見ていけば不愛想にも思えるのだけれど、表情全体をみれば、どことなく笑顔を浮かべているようにも見えるものだから、妙な愛着が湧いてしまった1枚である。
この不思議なキュートさを共有できる友人の誰かに送ってみようと、幾度か取り出したことがあったのだけれど躊躇いが勝って使えなかった。
かといって引き出しの中でずっと日の目を見ないのも、カエルにも作者にも申し訳ないような気がして、結果、私の栞として活躍中である。
生身の……という表現が適しているか分からないけれど、生身のカエルは正直苦手で、生まれてこのかた一度も直に触れたことがないのだけれど、
イラストのカエルやデザインモチーフと化したカエルなどに対して抱く感情は少し異なっているようで、カエルは何だか不思議な存在だ。
そのようなことを思いながら、テーブルに置いていたそれを取り上げて本に挟んだ。
私はカエルとパイの組み合わせを目にすると「穴の中のヒキガエル」という名の料理を思い出す。
突っ込みどころ満載の料理名だけれど、この料理の中にカエルは入っておらず、小麦粉と卵、牛乳を混ぜて作るプディング生地に、バターで炒めた玉ねぎとソーセージを入れて焼き上げる、総菜パン、総菜パイのような料理である。
プディングという名が入っているけれど外側はサクサク、中はしっとりしているので、パイのようなグラタンのような食べ物だと思っていただければイメージしやすいかと思う。
使われている食材からも想像できるとおり、そのままでも十分美味しいのだけれど、これに、マッシュポテトや茹で野菜を添えてグレイビーソースをかければ、イギリスの伝統的な家庭料理の出来上がりである。
料理そのものは、美味しくいただくことができる一品で、私も何度も食べたことがあるのだけれど、口にするたびに思っていたのは、どうして「穴の中のヒキガエル」なんて名が付いているのだろうということである。
どこから、どう聞いたって、美味しそうだとは思えない名だし、笑えもしない。
聞けば、焼きあがった状態を見ると、まるで穴の中にカエルが潜り込んでいくみたいな見栄えでしょというではないか。
イギリスという国のことは好きだけれど、こうして飛び出すイギリス人の感性、いやイギリス的なユーモアセンスには度々目を丸くしたように思う。
イギリスの料理はイマイチだと言われることが多いけれど、美味しいものも探せば……ある。
それなのに、探してみたいと思わせない原因のひとつには、名前や見かけで損している料理が多いからではないだろうかと思ったりもする。
見かけだけで分かることも確かに多いけれど、見かけや名前だけでは分からないことも往々にして、である。
料理上手な知人が焼いてくれていた「穴の中のヒキガエル」に使われていたソーセージは、大人好みのピリ辛タイプでクセになる味をしていたことを思い出し、あの味を再現すべく作ってみようかと本場のレシピを検索した。
美味しそうな幾つかをピックアップしたのだけれど、やはりこのネーミングはいかがなものだろうかと思う夕暮れどきである。
ご興味ありましたら、「穴の中のヒキガエル」いかがでしょうか。
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