真夜中に目が覚めてしまった。
二度寝を試みたけれど、思いのほかスッキリと目覚めってしまっていたのでベランダへ出てみることにした。
外へ出た瞬間に全身を覆う熱気に怯みかけたけれど、冷えすぎている体を少しだけ温めることにした。
流石に車の往来も少なく、信号機の明かりが普段以上に無機質なものに感じられた。
聞こえてくるのは室外機のブーンという音のみで、今夜も熱帯夜なのだと思った。
四季は辛うじて残ってはいるものの日本の気候は年々、熱帯化しつつある。
その影響からだと思うのだけれど、近年は日本でも亜熱帯植物が良く育つため、出回る量も増えているのだとか。
色鮮やかな亜熱帯植物を夏の日射しとともに楽しむことができるのは嬉しいけれど、これまで育たなかった植物が育つということは、生きられなくなった植物も少しずつ増えているということなのかもしれないと思うと少々複雑である。
そのようなことを思っていると、どこからともなくクチナシのような甘い香りが流れてきた。
時季から推測するにジャスミンの香りである。
ジャスミンは、日が落ちてから明け方にかけて真っ白な花を咲かせる植物だ。
ジャスミン以外にも夜に開花する花が夏の頃は特に多い。
その花たちに共通しているのは、花色が白っぽいことと、濃い香りを放つことである。
これは、夜に開花する性質なので、暗闇と同化してしまわないように、月明かりに照らされたときに存在を際立たせることができるように、目に見えなくても香りで居場所を知らせることができるようにといった狙いがあると聞いたことがある。
そうすることで、虫たちに自分の存在に気付いてもらい、受粉してもらうのだとか。
人間の勝手な見方をすれば、夜中に咲くなんて、せっかくきれいな花を咲かせても見てもらえないじゃないと思ってしまうけれど、必要なものは既に手にした状態でそこに在るようだ。
そうそう、ジャスミンの花は仏陀の歯に例えられることがある。
ここだけの話、私は白いジャスミンの花びらが肉厚だから「歯」に見えるという話なのだろうと推測していたのだけれど、どうやらあの潔いほどの白さを仏陀の「歯」に重ね合わせているようだ。
エアコンが効いた屋内から一歩外へでると、息をすることを忘れてしまいそうなほどの熱帯夜続きではありますけれど、外へ出る機会がありました折には、すーっと夏の空気を吸い込んでみてはいかがでしょうか。
夏の夜は、目には見えない花たちのエキゾチックな香りが漂い、何だかとても神秘的です。
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