珍しく書店のレジが込んでいた。
久しぶりに見つけた心踊る一冊をパラパラと捲りながら順番待ちをしていると
私の前に並んでいた小学校高学年くらいの女の子2人の会話が耳に届いた。
やはり、いつの時代も女の子はこうなのかもしれない。
アイドルの話で盛り上がっていたかと思えば、
クラスの男の子のことだろうか、あの時の○○君はかっこよかったね、
イケメンだよね、などと小声で言い合い楽しそうに笑っていた。
弾けそうな笑顔をチラ見しながら手元の一冊をパラパラしていると、
一人がこのようなことを言ったのだ。
「うちのお母さんが○○君は二枚目だって言ってたんだけど、大人はかっこいい人のことを二枚目って言うんだって」と。
それを受けたもう一人が、「昔の人の言い方かな?」とキョトンとした顔で答えていた。
む、む、むかし……?
そうか、「二枚目」という言葉を使わないだけではなく、
この子たちには通じない言葉になりつつあるのか、
と私はパラパラ捲っていた手をしばしの間止めて頭の片隅に書き留めた。
カッコいい男性を「イケメン」と言うようになったけれど
ここに足を運んで下さっている皆さんには、「二枚目」という言葉も通じますでしょうか?
今回はせっかくなので少し趣のある、と敢えて言わせていただきまして、
「二枚目」という言葉の由来などのお話を少し。
この言葉は、江戸時代に誕生した言葉です。
江戸時代は歌舞伎が流行っており芝居小屋なるものがありました。
そこには歌舞伎俳優の皆さんの名が書かれた看板が掲げられていたのですが、
この看板の枚数は8枚と決められておりました。
この8枚の中に自分の名があるということは名実共に認められた証でもあり、
俳優の皆さんにとっても目指すところであったようです。
そして、この看板には役柄順に並べるという決まりごとがありました。
例えば一枚目の看板は主役を演じる役者名が書かれており、
二枚目の看板には恋愛模様を演じるカッコいい色男、今でいうイケメンの役者名が、
三枚目の看板には笑いを担当する道化役を演じる役者名がという具合です。
これが世の中に定着しカッコいい役柄、役者やカッコいい男性のことを二枚目、
ユーモアのある役柄、役者や男性のことを三枚目と呼ぶようになったのです。
看板は8枚ありますので8枚目までどのようなタイプを指すのか決まっております。
せっかくなのでご紹介しますと、
四枚目はまとめ役、五枚目は適役、6枚目は何だか憎めないけれど適役、
七枚目は黒幕役を指し、八枚目は舞台の元締め、いわば座長を表しています。
流石に三枚目以降は覚えたとしても日常で使えるシーンは少ないですし、
「〇枚目」で言うと逆に分かり難いイメージがあるように感じますが、
二枚目、三枚目は、ほんの少し趣を感じる表現じゃありませんこと?
街中でカッコいい!イケメン!と叫ぶよりも
二枚目ねと小声で言う方が、何となく大人のしなやかさが感じられるような。
もし、お子さんに「それって昔の言葉?」などと尋ねられたら、
趣のある言葉なのよと大人の余裕を見せつけてみてくださいませ。
今回も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。