夏頃だっただろうか、近所に新しくカフェがオープンした。
一度は行ってみようと思っていたのだけれど、
夏の日差しを避けるようにして過ごしていた私は、
秋の深まりが見え始めた先日、ようやく新カフェデビューを果たした。
カフェの雰囲気を味わうに留める予定が、
厨房から漂ってくる何とも深くコクのある香りにつられてランチを頂くことにした。
香りの正体を尋ねると自家製のデミグラスソースだというのでビーフシチューをお願いする。
しばらくして運ばれてきたお皿にはお野菜の旨みがしっかりと溶けだしており、
化学調味料などに頼っていない素材の美味しさがあった。
丁寧に作られたひと皿をじっくりと堪能し、
日本の茶葉を使っているのだというアイスティーを味わっていると、
サービスだと言って真っ赤なイチゴジャムがアクセントになっている
クラシカルなロシアケーキを出してくださった。
ロシアケーキなんて何年振りに口にするだろうか。
ロシアケーキは明治時代にロシアから日本へ伝わったロシアの伝統焼き菓子です。
名前を知らなくても画像を見ていただくと、
「あぁ、これね」と思われるのではないでしょうか。
ケーキと名付けられているけれど、
2度焼きされた厚みのあるクッキーで真ん中には窪みがあります。
その窪みの中にはジャムやドライフルーツ、ナッツ、チョコレートが流し込まれています。
ロシアケーキは素朴だけれども、
トッピングのジャムの色合いやデコレーションがどこか味わい深いのです。
私自身は子どもの頃から慣れ親しんだお菓子ということはないのだけれど、
ロシアケーキに魅了されてしまった友人のおかげで、
日本各地にあるロシアケーキを食べ比べした経験がありました。
当時のことはすっかり忘れていたのだけれど、
目の前に置かれたロシアケーキを目にした瞬間にその時の経験が蘇り、
私にロシアケーキを懐かしいと感じさせたのです。
ロシアケーキの歴史を覗いてみると、
あるロシア人の菓子職人の存在が浮上します。
彼はロシア皇帝お抱えの菓子職人だったのですが、
新宿中村屋さんに招かれて、数多くのロシアのお菓子を日本に伝えてくださったのです。
その中には、ロシアケーキのように中央に窪みのある焼き菓子があり、
ロシアの人は、この窪みにジャムやハチミツを入れて食べる習慣があったのだとか。
この焼き菓子とジャムの習慣をミックスさせて
日本風にアレンジしたものがロシアケーキだと言われています。
友人からこのような話を聞かされながら味わった
あの頃のロシアケーキの味はすっかり忘れてしまったけれど、
この日いただいたロシアケーキは、
記憶のどこかに眠っているあの時の味に触れたのでしょう。
初めてのカフェで過ごす時間は、私にとって美味しくて懐かしい時間となりました。
そう言えばロシアケーキってどんなお味だったかしら?と思われた方、
ロシアケーキって食べる機会がなかったかも、と思われた方、
見かけられた際にはプチトライをして
日常にちょっぴりレトロな風を呼び込んでみてはいかがでしょうか?