春の香りに吸い寄せられるかのようにフラワーショップへと足を踏み入れた。
自宅から徒歩圏内にあるそこは、みずみずしい元気なお花の宝庫で、
私のフラワーライフを支えてくれている存在だ。
フラワーショップと言えば、店員に声をかけてお花を取ってもらう所が多いけれど、
ここはフラワーバイキングのような形式をとっているところも気に入っている。
そしてもうひとつ。
最初の挨拶を交わした後は、良くも悪くも、お客様を放置してくれるのだ。
完全に野放しにされた私は誰に気兼ねすることなく、
のびのびと店内を見て回り、本当に気に入ったお花だけを連れ帰っている。
その日、私の目に留まったのはカラフルなラナンキュラスというお花。
一般的には3月~4月頃に咲くお花なのですが、さすがはフラワーショップ。
ひと足お先に春です。
どのようなお花かといいますと、このようなお花です。
ラナンキュラスは、春のお花で幾重にも重なる花びらが特徴です。
フラワーショップで見たときには少し頼りないお花に見えることがあるかもしれませんが、
それはまだ花びらが開いていない状態です。
徐々にプリンセスのドレスのように広がりボリューム感のある姿を見せてくれます。
そして、ラナンキュラスの花言葉には、魅力的、名誉・名声、晴れやかな魅力など
未来がぱーっと開いていくようなものが多いため、
春のお祝いごとの花束に使われることもあります。
ただ、ものごとには表と裏の両面があるように、
この世にひとつも傷を持たない人がいないのと同じように、
ラナンキュラスも切ないエピソードを持っています。
本格的な春までもう少し時間があるこの時季、
ラナンキュラスのエピソードを覗いてみませんか?
きっと、このお花の魅力をもっと味わうことができるのではないでしょうか。
さて、遠い遠い、遥か昔のお話でございます。
ラナンキュラス君という名の青年と
美青年として知られていたピグマリオン君という名の青年がおりました。
この二人は深い絆で結ばれている親友でした。
ある日二人は山で道に迷い自分たちの村へ戻ることができなくなります。
困っていると、その辺りに住んでいるのだというコリンヌちゃんという名の
美しい女性に出会います。
ラナンキュラス君とピグマリオン君はコリンヌちゃんに事情を話し、
ひと晩だけ泊めてもらえないかと頼みます。
気立てが良く美しいコリンヌちゃんは、
困っている2人を放ってはおけなかったのでしょうね、快諾します。
こんなにも素敵な女性を目にしたら恋に落ちるのも時間の問題。
ラナンキュラス君もピグマリオン君も彼女に恋をしてしまいます。
その時、コリンヌちゃんも恋に落ちていたのです。ピグマリオン君に。
この状況に気付いたラナンキュラス君は自分の気持ちを封印し、
親友にも彼女にも何も言わないまま2人の結婚を祝福しました。
その後、ラナンキュラス君は胸の奥に恋の痛手を宿したまま、
2人には黙ってシシリー島へと渡り、島で彼の人生を終えてしまいます。
ピグマリオン君は突然姿を消したラナンキュラス君を探しましたが、
島に辿り着いた時には親友はこの世を去っていたそうです。
親友のお墓のそばで咲いていた一輪の花、
この花は後に「ラナンキュラス」と呼ばれるようになり、
今もこうして私たちの目を楽しませてくれています。
ラナンキュラスには彼の一途で紳士的で愛情深い姿が
花の名として、花言葉として残されています。
素敵なお花なので春になれば、その美しさに多くの方が魅了されるかと思います。
それまでの、ほんのひと時、彼の想いにも触れていただければと思います。