先日も近所で、まだ使ったことがない小路がちらりと目に入った。
知らない道だと頭で意識したときには既に、私の足はその小路へと向かっていた。
私は、同じ時間に同じ道を通るというようなことが、あまり好きではない。
これは、今に始まったことではなく子どもの頃から、ずっとこうだ。
決められた時間に同じ通学路を使って登下校するということをツマラナイ、そう思っていた。
だからこっそりと、知らない道を使って登下校し、
近道や時間帯によって表情を変える秘密の景色を見ることができる道などを開拓していた。
今ほど危険が多かった時代ではなかったけれど、それでも、その時代の危険というものは在り、
大人が子供に抱く心配は当時も変わらなかったのだと思う。
当然の如く、担任の先生や親に心配をかけるようなこともあった。
ただ、その後も、親の心子知らずではあるけれど、
「バレてしまわないように」という意味での細心の注意を払いながら小さな探検を繰り返していた。
人の本心を知りたければ言葉ではなく行動を見ると良いなどと言うけれど、
時に人の体は、脳内会議をスルーして動いてしまうのだ。
ノスタルジアの欠片と自分の原点を垣間見ながら私は、
まだ使ったことがない小路で大人の探検を始めた。
ワクワクするような出会いなく歩いていると、
視線の少し先に小さなフラワーショップらしき置き看板が目に飛び込んできた。
あそこへ行こう、そう思いながら踏みしめる一歩には自然と力がこもった。
お店の前まで行くと、そこはフラワーショップではなくフラワーリースのお店だった。
フレッシュなフラワーリースのみを扱う珍しいお店に興味が沸き、
少し重たい木枠のドアを引き開けて店内へ入った。
店内に入ると鮮やかな黄色いミモザとオリーブの葉のリースが目に飛び込んできた。
お花の指定は受注生産でのみ注文を受けつけてくださるということだった。
その日の私は注文の予定はなかったのだけれども、
お店の方のご厚意に甘えて少しだけ店内にあるリースを眺めさせていただくことにした。
ミモザは春を告げる花。
この黄色いミモザとオリーブの葉の組み合わせは鉄板でヨーロッパでも人気が高い。
確か、フランスにはミモザ祭りを開く地域もあったように思う。
そして、3月8日は「ミモザの日」と言って男性が女性に感謝の気持ちを伝える日で、
奥様や恋人、お世話になっている女性にミモザの花を贈る習慣がある。
もとは国際女性デーのことで、この日のシンボルがミモザなのでミモザの日と呼ばれている。
花言葉は「秘密の恋」や「友情」だと言われているのだけれど、
私は、その花言葉から「違う顔を内包しているような花」というイメージを持っていたりもする。
大人の探検中に出会ったミモザのリース。
春を告げる花と呼ばれているだけあり、
ミモザの鮮やかさが私の心にフレッシュな春風を運んできてくれたようにも思う。
これだから大人の探検も、大人の寄り道もやめられないのだ。
これまでも、これからも。