「桜はいつまでも待っていてくれるわけではない。
多分、この日が様々な意味でラストチャンスだ。」
私の寝起きの頭はアラームを止めながら、そのようなことを思っていた。
普段であれば、ここから、もうひと眠りするところなのだけれど、
春を艶やか且つ、しなやかに駆け抜けていこうとしている今年の桜を
ひと目見ておこうと身支度を整えた。
そして、お弁当や飲み物を買い込んで、いざ、お花見スポットへと繰り出した。
枝垂桜や山桜は既に葉桜になっていたけれど、
ソメイヨシノは満開で辺り一面が桜色に染まっていた。
到着するや否や桜の花びらが風に舞う景色に息を呑む。
桜吹雪の中を進みながらレジャーシートを広げる場所を探しているつもりでいたのだけれど、
気付けば右へ左と忙しなく視線を動かし桜を目で追う私がいた。
「まずは、落ち着こう」と息を整え、少し先にあった桜木の下、芝生の上にシートを広げた。
シューズを脱いで上がると、地面のひんやりとした感覚が足の裏から伝わってきた。
頭上の桜の花は、一輪一輪が大きく花開いており、
その姿は美しさを通り越した力強い目力のようにも感じられた。
「桜と目が合ったら視線を逸らせない」などと言いながら桜を見上げる私に
周りはポカンとしていたけれど、それくらいに力強かったのだ。
桜越しの太陽は、ほんのり桜色に色付いているようにも見え、
ピンクムーンならぬピンクサンじゃないかと零しかけたこちらの声は、軽く飲み込んだ。
自然の中で食べる食事は自然の香りもちょっとした調味料になるのだろう。
食べ慣れているはずのメニューが、普段よりもほんの少し美味しく感じられる。
お腹も十分に満たされ、シートの上にゴロンと転がる。
大地の鼓動が体に伝わってくるようで気持ちいのに妙にドキッとした。
少しだけ顔を横へ向けると、芝生の青い香りと共に普段とは異なる世界が目の前にあった。
シャキッと伸びた芝生の上に舞い落ちた桜の花びらは素敵な日除けにも見えて、
気分は『借りぐらしのアリエッティ』に出てくる主人公、アリエッティ。
※『借りぐらしのアリエッティ』とは、メアリー・ノートンのファンタジー小説『床下の小人たち』が原作で、スタジオジブリがアニメーション化した作品。
皆が桜の木を仰ぐ中、全く異なる世界が同じ場所に同居しているなんて素敵。
そのような事を思いながら、私はしばらくアリエッティの世界を堪能した。
「どんな時も上を向いて歩こう」と言われることがある。
もちろん、言わんとすることは分かってはいるのだけれど、
時々、こうして下を見てみるのも、それ程悪いものじゃないと思ったりもして。
それにしても、一斉に咲きこぼれる桜の美しいこと。
舞い散る様、散った花びらさえもが完璧で。
皆さんはどのような桜を楽しまれましたか?
今年の桜はことし限り、是非、今年の彼らの咲きっぷりを見届けてあげて下さいませ。
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