自宅近くの川沿いには桜の木がずらりと並んでいる。
メジャーな観光地というわけではないものの、
春になると見応えのある桜のアーケードが出来るため、お花見やBBQなどを楽しみに訪れる人も多い。
今の時季は力強い深緑色の葉が繁茂しており、
涼し気な森の中をあるいているような気分を楽しむことが出来る心地よい場所だ。
移り行く季節を肌で感じることができるため、私も好んでこの道を歩く。
天気の良い日だった。
日傘を使わない私は、少しでも日差しを除けようと深緑色のアーケードに足を踏み入れた。
ヒンヤリとした空間に、桜の葉の隙間から射し込む木漏れ日。
目の前にはポストカードのような景色が広がっていた。
犬の散歩やウォーキング、ランニングを楽しむ人たちとすれ違いながら進んでいると、
炭火の香ばしい香りが鼻を擽った。
河原の方へ視線を流すと、思い思いの場所でBBQを楽しむ家族連れの姿があった。
その日が休日であることに気付いた私は、向かう先の混雑を少しだけ覚悟した。
少し先の方では、BBQでお腹が満たされたのか、子どもたちが、しゃがみ込んで地面を眺めているようだった。
川遊びもいいけれど、木陰にも色々な楽しみがあるものね、
そのようなことを思いながら彼らの横を通り過ぎようとした時だった。
小さな男の子が勢いよく、スクッと立ち上がった。
手にはプッチンプリンが入っていたかのような、透明のプラスティック製の容器が握られていたのだけれど、
立ち上がった勢いに押しだされるようにして、その中身が私の周りに飛び散った。
かなりの数の丸い何かが飛び散ったものだから「大丈夫?」などと声をかけつつ、
反射的にしゃがんで拾い集めようとしたのだけれど、伸ばした手を思わず引っ込めてしまった。
小さくてビーズのようなものだったと思っていたものが、
ぽてっとした横長の形状に変形し動き出したのだ。
ダ・ン・ゴ・ム・シ……。
少年というものは、どうして、このようなものを集めたがるのだろうか。
いつぞやかは、蝉の抜け殻を集めていた少年を見かけたことがある。
集めたその後が謎である。
虫が苦手なママやパパだっているだろうに。
可愛い我が子がプッチンプリンの空き容器いっぱいにダンゴムシを集め、
満面の笑みを浮かべながら「ほら、見て」と自宅に持ち帰ってきたら……。
私なら恐怖である。
申し訳ないが、目の前の件に関して私はお手上げだ。
小さな両の手で砂をかき集めるかのようにして散らばったダンゴムシを集める彼らに、
「頑張ってね」と声をかけ、私は静かにその場を後にした。
もちろん衣類にダンゴムシが付いていないか、確認を念入りに行いながら。
それからすぐに、背後からキャー、ギャーと、ママらしき女性たちに悲鳴が聞こえた。
大方、そうなると思うのだ。
ダンゴムシよ、急いで逃げて。
ある日曜日の午後のできごとだ。