飲食店に入ると、お水と一緒に差し出されるおしぼり。
この季節は、手を拭うだけでも気分がサッパリするのでありがたい。
珍しく自宅近くのカフェで、この原稿をしたためているのだけれど、
少し離れた席に着いた男性方が、お顔を一斉におしぼりでワシャワシャと拭っている。
お顔を拭くものではないという暗黙のルールをサラリと覆ってしまうような
「それでも拭いちゃうよね、気持ちいいからさ」
という男性たちの堂々たる態度に、日常の中にある平和を感じたりもする。
1枚のおしぼりでリフレッシュ効果が得られて、
その後のお仕事も張り切ることができるのであれば、
思う存分、自由にワシャワシャとやって下さいませ、と思う。
日本には、そう思えるだけの衛生基準と、
その基準を満たすことができるだけの技術があるのだから。
この「おしぼり」というアイテム、実は、日本発祥のものなのだ。
平安時代からあったのでは、と言われており、
お客様がいらした際にお出ししていた「濡れた布」が、おしぼりのもとになっているのだとか。
そのスタイルは時代によって変化しているのだけれど、
時代劇などで、水をはった桶と手ぬぐいが用意されており、
旅人が手や足を拭っている様子を目にしたことがあるのではないだろうか。
これも、その時代の「おしぼり」のかたちだ。
このように少しずつ形を変えながら成長してきた「おしぼり」は、
戦争の影響を受けて、一度は世の中から無くなりかけたようなのだけれども、
日本が活気づくにつれ、タオルタイプの「おしぼり」が再び登場するようになり、
現代の「おしぼり」ビジネスにまで成長したといいます。
日本では当たり前の「おしぼり」だけれども、
これは日本発祥のおもてなし文化のひとつで、
海外でも取り入れられつつある注目の習慣なのだ。
だからなのだろう、国際線の機内食サービスで出される、
適温の「おしぼり」に、外国の方は感動するのだとか。
そして、私たちの日常には、
タオルタイプの「おしぼり」やウェットシートタイプの「おしぼり」があったり、
「おしぼり」が経費削減の対象となった飲食店もある。
形を変えながら受け継がれている先人たちの「おしぼり」は、
「おもてなし」であり、
その時代の一端を垣間見ることができるアイテムでもあるのかもしれない。
それにしても、あの「おしぼり」で顔をワシャワシャとするあれ、
女性は、なかなか出来ないことだけれど、
男性にとっては至福のひとときなのかしら。
そのような素朴な疑問を浮かべつつ、
再び現代の戦場へと向かうサラリーマンたちの背中を見送った。
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