今年は暑さが長引くのでは、と言われているけれど、日差しの中には微かに秋色の光が混じり始めたように思う。
陽が落ちれば、どこからかともなく鈴虫の声が聞こえる夜や、思いがけず涼し気な夜風を浴びることもある。
暑さが長引く、とは言っても秋は着々とやってきているのだと感じる今日この頃だ。
私の体も、力強さを含んだ残暑を感じつつも秋を求めているようで、
店頭に並んでいたボディークリームやネイルオイルの中から私が手を伸ばしたものは、
どれも少しだけ秋冬の香りが含まれているものが多いように思った。
成分表示を見ることを癖と言ってよいのか、趣味と言ったらよいのか分からないけれど、私はつい、成分表示を念入りに見てしまう。
その日も商品に手を伸ばしては手首をクルリと返し成分表示を眺めていた。
すると、どの商品にもメジャーな香料のひとつ、ムスクが含まれていた。
思考の流れから香料の世界へダイブするのかと思いきや、私の脳内はムスカリの映像が映し出された。
ムスカリというのは、ぶどうに似たフォルムをした植物のことで、その見た目からブドウヒヤシンス、グレープヒヤシンスという別名を持っている。
また、ムスカリという名の語源は、麝香鹿(じゃこうじか)のお腹辺りにあるジャコウ線から出る分泌物を乾燥させて作る香料のムスクだと言われている。
ムスクは香水やボディークリームなど、様々なものに使われているメジャーな香料のひとつで、甘く深みのある香りが特徴。
私たちが目にするムスカリは香りを発しないものが多いため、どうしてムスカリの語源が香料のムスク?と思ってしまうけれど、
ムスカリは品種が多く、その中にはムスクのように甘く深みのある香りを放つものもあるようで、これがムスクを連想させたのではと言われている。
ムスカリは寄せ植えなどに使われたり、花束の脇役になることが多く、メイン使いされるお花ではないのだけれど、わたくし、このムスカリが大好きなのだ。
花弁が開かないため、ブドウの実のようにも見えるし、神楽を舞うときや歌舞伎などで使われる神楽鈴(巫女鈴とも)のようにも見える。
私が、ムスカリを初めて目にしたのは、旅先で川沿いを散策していたときだったと思う。
そよ風に揺れる可愛らしさと、凛とした芯のような力強さが見えたような気がして、
名前も分からぬその姿を何枚も写真に収めた。
後に、その花がムスカリという名であること。
花言葉には、「通じ合う心」、「明るい未来」、「寛大な愛」といったポジティブなものと、
「失望」、「絶望」、「失意」といったネガティブなものの両面を持っているということなどを知った。
相反する面を内包するムスカリに、どこか人間臭さを感じ、勝手に親近感を抱いただけなのだろうけれど、その時から私の好きな花のひとつとなっている。
フラワーショップでは、ハウス栽培のムスカリを季節問わず手にすることが出来る場合もあるけれど、本来の開花は4月頃。
楽しめるのは少し先になるけれど、あなたが次に出会うムスカリは、どのような表情をしているのでしょうね。
ムスカリに触れる機会がありましたら、今回のお話を少しだけ思い出していただけましたら幸いです。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/