昨年の今頃、頭の中でグルグル巡る言葉たちを落ち着かせようと散歩に出た先で、
カワセミが、この時期の野鳥であることを、通りすがりのご老人に教えていただいた。
カワセミと聞いてすぐにその姿を思い浮かべることはできなかったけれど、
「翡翠」と書いて「カワセミ」と読むということと、
カワセミは別名「渓流の宝石」、「空飛ぶ宝石」などと言われる鳥であることは、
天然石の世界に触れるときに幾度か見聞きしたことがあったため、
ご老人が指さす先を見ながら「あ、あの鳥のことか」と、そのような気持ちになった。
翡翠の字を使うのだから翡翠色をした鳥なのだろうと勝手に想像していたのだけれど、
視線の先に居たカワセミは、とてもキレイな青色と胸のオレンジ色のコントラストが美しい姿をしていた。
そのような感想をこぼすとご老人が言った。
本来のカワセミは翡翠色をしているけれど、
光の当たり方によってキレイな青色に見える羽なのだと。
後日、調べてみて分かったのだけれども、そのような現象のことを構造色と言うのだそう。
CDに光を当てると虹色に色づいて見えことがあるけれど、
同じような現象がカワセミの羽で起こっていて、
CDでは虹色だったけれどカワセミの場合は青い色が強く出るということのようだった。
私が想像していたカワセミとは少し異なっていたけれど、
渓流の宝石の名も、空飛ぶ宝石の名も、翡翠の文字を背負っていることも、伊達じゃないのだなと思った。
そして、このカワセミの雄はプロポーズをするとき、手土産を持参するのだそう。
その手土産は、川を泳いでいる活きの良い小魚であったり、カワセミが好んで食す虫だったり、
その環境によって手土産の内容は様々であるようなのだけれど、
手ぶらでプロポーズすることはないのだとか。
人間の世界だけでなく、鳥の世界にも、その他の種族の世界にも、
大切なお作法があるということなのだろう。
そして、その中には、どこかしら似通ったものもあるのかもしれない。
気分転換に足を延ばした場所でカワセミを見かけ、
そのようなことを思いながら鮮やかな青にしばし見入った、ある日の夕暮れ。