空腹と思い出は最高の調味料だと思う。
そろそろ使い切ってしまいたいジャガイモに気付き、ジャケットポテトを作ることにした。
ジャケットポテトと言う呼び方をすると大層なものでも作るような印象を与えてしまうけれど、
ベイクドポテトのことだ。
紳士のいる国に住む人の発想だろうか。
英国ではベイクドポテトの皮を「ジャケット」と呼び、
ジャケットを着た(ように見える)ジャガイモだから、ジャケットポテトと呼ぶのだそう。
作り方は簡単で、しっかりと洗った皮つきのジャガイモにの所々にフォークを刺して穴を開け、
余熱した220℃ほどのオーブンに入れたら、40~50分じっくりと焼き上げるだけ。
40~50分も?と感じるけれど、英国で食べられているジャガイモのサイズが非常に大きいため、
このくらいの時間がかかってしまうのだと思う。
オーブンにもよるのだけれど、途中でジャガイモをひっくり返しながら焼きあげると、
皮はパリッと香ばしく、中はホクホクとした優しい仕上がりになる。
中までしっかりと焼けていたらオーブンから取り出し、
半分、もしくは、十字にナイフを入れてジャガイモを開き、
ツナマヨや、チーズ、コールスローやチリコンカン、バターやお塩など、
好みのトッピングを乗せて楽しむメニューだ。
時間を短縮したい場合はラップに包んだジャガイモをレンジで柔らかくなるまで加熱し、
ホクホクに仕上がったポテトの上にお好みのトッピングを施したものを
オーブントースターで焼けば出来上がり。
じっくりと時間をかけて焼き上げたものと比べると、香ばしさは少々劣るけれど、
ジャケットポテトであることには変わりない。
英国料理に対する印象は賛否両論あるけれど、
スーパーに行けば、ジャケットポテト用のジャガイモがあるほどで、
この料理は、トッピングアレンジの幅が広いこともあり、ランチや軽食として、
カフェやパブメニューの一品として、子どものおやつにと幅広く食べられている。
ヨーロッパのジャガイモは、日本のそれよりも大きくて甘味と粘りが強く、
ジャケットポテト向きであるようにも思う。
確かに、お手軽で当たり外れがあまり無い、美味しいメニューだとは思うのだけれども、
私が始めて口にしたときのトッピングは、チリコンカンがたっぷりと乗せられており、
量の多さと、豪快で単調な味付けに、完食できなかったことを覚えている。
そして、度々登場するジャケットポテトを前に、
日本には美味しいものがたくさんあることに誇りを感じ、
日本で食べることができるメニューのクオリティーの高さを恋しく思ったこともあった。
何かに触れることで気付くことがある。
その「何か」は、必ずしも異国のものごとや目新しいものごとである必要はなく、
自分が触れ関わる全てのものごとの中に在る、自分自身や自分のこれまでとは異なる部分が、
様々なことを気付かせてくれるように思う。
何に、どれくらい気付くことができるかは、その時々の、自分の成熟度にもよるのだろうけれど。
その日も脳内で徒然巡らせながらジャケットポテトを作ってみた。
あの頃食べていたような味とは異なっていたけれど、
足りない味は、記憶と思い出のトッピングで賄えたような気がした。