小料理屋で食事をしていた時のこと。
席をひとつ空けて隣に座っていたご年配の方と店主との会話が耳に届いた。
ご年配の方が言うには、最近は、トッピングを選ぶことができるお店が随分と増えており、
多種多様な選択肢の中から、いくつかのトッピングを手際よく選ぶことに慣れていない世代の自分は、
注文のときに緊張してしまうのだとか。
その緊張には、お店の方の手をできるだけ煩わせたくない気持ちも含まれており、
自分が本当に口にしたかった組み合わせとは、少しばかり異なるものを頼んでしまっていたことに、
運ばれてきた料理を食しながら気が付くこともあるのだそう。
日本人は、自然に相手を思いやることができてしまうため、
時にはこのようなことも起こり得るのだろうと思った。
店主は、店側を多少待たせたとしても、お客様が一番食べたいと思うものを自分でペースで伝えれば良い、
というようなことをおっしゃっていたと思うのだけれども、続けて、このようなこともお話されていた。
日本食に携わる者が広めそびれてきたのだと思う、
好きに呼んでいただいて構わないと思っているという前置きの後、
最近は、和食の場でもトッピングという言葉が頻繁に飛び交うけれど、
本来は「上置き(うわおき)」という呼び方があるのだと。
上置き(うわおき)は、白米や麺類の上に乗せるお肉やお魚、野菜などの具材や、乗せることを指すという。
私も和食の場で無意識にトッピングという言葉を使ってしまいそうな気がするのだけれど、
本格的な和食を味わう場で発することを想像すると、口ごもるような気もした。
和食をいただく場で、粋に使うことができる言葉を知ることができたけれど、
私が、「上置き(うわおき)」を自分の言葉として粋に使いこなすには、もう少し時間が必要だ。
そんな、まだまだこれからという私が、店主との会話の中で教えていただいたことは、
今が旬である苺を洗うときは、ヘタを付けたまま洗うと良いということ。
付けたまま洗っても取り除いてから洗っても大して何も変わらないと思っていたのだけれど、
ヘタを取り除いた後に洗うと、苺に含まれているビタミンCが、水や汚れと一緒に洗い流されてしまうのだとか。
これを知ってからは、ヘタが邪魔になろうとも、取り除くことが分かっているヘタであろうとも、
ヘタごと丁寧に洗ってから手を加えるようになった。
こちらは、ひと足先に自分のものにできたように思う。
和食も食材も日本語も、味わい尽くすまでの楽しみは、そう簡単には無くならないようだ。
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