カフェでお茶をしていたときのことだった。
背後から、「どっちでもいいよね、通じれば。バイトの人、うるさいね」と聞こえてきた。
お嬢さんたちの会話は、聞き耳を立てずとも聞こえてくるくらいまでヒートアップしていた。
彼女たちがバイトの人と呼ぶその方は、多分、正社員の方だと思うのだけれども、
その方に、「こんにちは」という出だしで始まるメッセージを送ったら、
「こんにちは」は、「わ」ではなく「は」です。と指摘されたという話のようだった。
私も以前、友人から、会社の新人から送られてきたメールに「こんにちわ」とあり、
これは入力ミスなのか、正しくは「こんにちは」ですよと指摘すべきものなのか、困惑したという話を聞いたことがある。
正しい表記を知っている上で、仲間内でふざけて使うのは、個々の自由と責任と判断だけれども、
どちらでも良いと感じる所まで線引きが緩くなっているのだとすれば、問題があるように思う。
言葉は、時代とともに変化するものだけれど、守るべきラインはあるのではないかと。
ただ、子どもたちが、文字にしたときの見栄えが可愛いからというような理由や、言葉遊びの延長で使っているうちに、
「わ」であろうが「は」であろうが大差ないと感じるようになる気持ちを、全く理解できないのかと問われれば、そういうわけではない。
だからこそ、そのような時に大人が、さりげなく何をどのように伝えるのかで、受け継がれていくものもあるように思う。
もともと「こんにちは」は、漢字では「今日は」と記す。
これは、古い時代のコミュニケーションで「今日は、ご気分はいかがですか?」「今日は、お元気ですか?」といった挨拶が交わされていたのだけれど、
会う度に、この長いフレーズを言い合うことを面倒に感じるようになった人々が、もっと簡単に出来る挨拶はないかと考え、
冒頭の「今日は」に全ての気持ちを含ませ「今日は(こんにちは)」と使うようになり、定着したものだ。
これを知っていると、「今日わ、ご気分はいかがですか?」「今日わ、お元気ですか?」とは書かないため、正しくは「こんにちは」だと腑に落ちるのではないだろうか。
私の友人は、新人にこの話をしたそうなのだけれども、
学生だったら「今日ゎ、お元気ですか?」も使えないことはないと言われ、軽い眩暈を覚えたと言っており、
私は、友人の困り顔をよそに、言葉は使い手の勢いをも味方に付けるのかと思い大笑いしてしまった。
私たちが使う言葉が、言葉の未来だ。
言葉遊びも度が過ぎれば、文化や伝統を脅かしてしまうのかもしれない。
私の友人のようなシチュエーションに遭遇した際には、
「正しい」「間違っている」と大人風を吹かせて指摘するのではなく、大人風のかわりに愛情と言葉の背景を添えてあげてくださいませ。
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