私が越してきた時に一度だけお会いしただけの間柄だったけれど、
自宅の真上に住んでいらっしゃった方が、数か月前に引っ越しされた。
それから一か月も経たないうちに、次の方が越していらした。
ご丁寧なご挨拶を頂戴したのだけれど、それっきり顔を合わせる機会もなく、
多分、エントランスですれ違って挨拶を交わすことがあったとしても、その方が真上の方だと気付く自信はない。
多分、お互いにそうなのだろうと思う。
以前、知人たちと、引っ越しのご挨拶時にお渡しする贈り物に関する話をしたことがある。
全く知らない土地へ引っ越しする際には、その土地のしきたりも、相手の事も全く分からない状態で準備しなくてはいけないため、
気が利いた何かではなく、必然的に無難な贈り物になる。
しかも、引っ越しで慌ただしくしている中での準備は、思う以上に大変である。
更に、既に出来上がっているご近所の輪に対して入っていかなくてはいけない場合、
必要以上にアウェイを感じてしまう方もいるだろうと思う。
そのような話が、次々に飛び出していたのだけれども、アメリカ暮らし経験者の方が言った。
「私が住んでいたところでは、ご挨拶しに行くのは、新しく越してきた方ではなく、
先にその土地に住んでいる近所の方々だった」と。
そして、その土地の先輩となる方々は、ウェルカムバスケットと言って、
バスケットの中に近所で評判のお店のお菓子やパン、お野菜など、その土地を知るきっかけになるようなものを入れ、
近所の地図や、おすすめのお店、評判の良い病院の情報、その他これから役立つであろう情報を添えて、歓迎の気持ちと共に贈るのだそう。
知人は、ウェルカムバスケットをいただく側と贈る側の両方を経験したそうなのだけれど、
このウェルカムバスケットの中身が、後に顔を合わせた際に話のきっかけにもなり、
母国語が通じない土地での暮らしにありがちな、様々な不安を取り除いてくれる風習だったと話していた。
一方、私が暮らして英国では、そのような風習はなかったと記憶している。
もちろん、顔を合わせれば簡単な自己紹介のようなものをすることもあるのだけれど、
それを好む人、好まない人と居たし、「今度一緒にお食事でも」といった社交辞令も日本と同じくらいにはあった。
更に、地域によっては驚くくらい異国人に閉鎖的な土地もあった。
もし、日本にウェルカムバスケットの習慣があったらどうだろうかと想像してみた。
引っ越しが多い私は、どこへ行っても新参者でしかないため、
贈る側になったなら、こそばゆい思いをするのではないだろうかと思う。
いつの間にか隣人が変わっていた、というようなことも珍しくない世の中だけれども、
引っ越しのご挨拶ひとつとってみても、様々だ。
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