スマートフォンの予測変換機能と学習機能、
そして、微細な指先の動きを素早く感知する機能の併せ技に先手を打たれた私はその日、
数え切れぬほど、バックスペースキーの上に指先を乗せた。
気が利くことは悪いことではないのだけれど、利きすぎるというのも、時に困りものだ。
急いでいる時に限ってこれだ。
このような時ほど焦らずに深呼吸をして、「のんびりでも大丈夫」だと自分自身に嘘をつく。
嘘も方便と言うし、急がば回れとも言う。
それに、私が少し急いだからといって、たかが知れているし、結局のところ自己満足だ。
頭の中で、このくらいの理由を走らせているうちに、指先からも焦りが消え、
気を取り直してスマートフォンの画面を覗き込んだ。
その時の私が入力しようとしていたのは「趣味趣向」という言葉。
しかし、私のスマートフォンは以前入力したであろう「趣味嗜好」に素早く反応した。
趣味嗜好と趣味趣向。
似た響きであり、似たような意味で使われていることもあるけれど、この言葉にはちょっとした違いがある。
今回は、そのようなお話を少し。
この辺りで、この2つの言葉の中身をサラリとセルフチェックしておこうかしらと思われた方は、
少しだけ柊希にお付き合いくださいませ。
趣味、嗜好、趣向、この3つの言葉を簡単に見ると、
「趣味」は、映画鑑賞や、テニス、スキューバダイビング、料理といった、
自分が好きで行っているものごとや、ものごとが持っている、味わいや趣きを表す言葉です。
ただ、今回の場合はシンプルに、専門家とまではいかないけれど、自分が好きで楽しんでいることを表しています。
「嗜好」は、嗜好品といった言葉もあるように、
食べ物や飲み物など、食に関する好みの傾向を表す際に使われていますが、
もともと言葉に含まれている、嗜みや好みという意味から、
個人的な、ものの好みを表すこともできるので、
「趣味嗜好」は、個人的に好きで楽しんでいることや、好みを表します。
一方の「趣向」は、趣向を凝らすという言い方をすることがありますが、
ものごとの方向性や目的、意識といった意味があります。
「趣味趣向が合う」と使う場合、イメージとしては「趣味が合う」という表現よりも、
もう一段深く合っていることを表すことができます。
例えば、Aさん、Bさん、Cさんの趣味が音楽だったとしましょうか。
音楽好きという意味では、3人の趣味は合っているので「趣味は音楽」「趣味嗜好は音楽」と言えます。
その趣味の楽しみ方を見てみると、
Aさんは自分が演奏して楽しむ音楽が好き、Bさんは聴くことが好き、Cさんはライブに足を運んで音楽を楽しむことが好きという具合に、異なるこもあります。
この、一歩先まで見たときに「趣味は同じだけれど趣向はそれぞれ」もしくは、
一歩先まで同じであった場合には「趣味趣向が同じ」という風に使うことができます。
日常の中では「趣味嗜好」という言葉の方が幅広いシチュエーションで使うことができるため、
使う機会や、見聞きする機会が多いかと思いますが、
より深く、しっかりと相手に伝えたい場合には、
「趣味趣向」を使ってみるのも良いのではないかと思います。
自分自身で使う機会がなかったとしても、
小説の中などで「趣味趣向が合う」というフレーズが出てきたら、
趣味だけではなく、その趣味の楽しみ方や好みまで合っていると理解できるので、
より深く物語や、登場人物の関係性を楽しむことができるように思います。
明日すぐに役立てられることではありませんが、
このような言葉に出会う機会がありましたら、ちらりと思い出していただけたなら幸いです。
本日も柊希にお付き合いいただきまして、ありがとうございます。
感謝の気持ちを込めまして……☆彡
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