随分と前のことなのだけれども、その日、仕事をご一緒した方々と居酒屋で軽く食事をすることになった。
席に着き、注文したお料理が届く前に、飲み物と一緒に運ばれてきたお通しは、
とても手の込んだもので、その後のお料理への期待値が高まるようなものだった。
各々が、自分の目の前に置かれた小皿の中を覗き込み、似たようなことを感じたのだろう。
数人が、お通しの中身について、ポツポツと言葉を発した。
その時に、「このお通し」と「この突き出し」という二つの言葉が宙で混ざり合った。
今や、この言葉の両方ともに、注文したお料理が運ばれてくる前に出されるお料理であることは、広く知られているけれど、
どちらの言葉に慣れ親しんでいるかで、出身地が分かると言うのだ。
まずは、この注文したお料理が運ばれてくる前にお料理を出す習慣は、
江戸時代にはまだ存在していなかったそうなので、割と新しい習慣だと言われている。
そして、これを「お通し」と呼ぶのは関東なのだそう。
語源は、「注文の通し」で、お客様の注文を間違うことなく厨房や受付に通しました、伝えました、という意味や、
お客様を席へお通しした(ご案内した)という意味があると言われており、
その印として、お客様には、お酒の肴になるようなものや、お水が出されるようになったと言う。
一方の関西では、このお料理のことを「突き出し」と呼ぶことが多いという。
こちらの語源は、お客様の注文とは関係なく、お料理を突き出すことから、「突き出し」と呼ばれるようになったのだとか。
その食事会に参加していた面々で、各々が言い慣れている方、聞きなれている方、使い慣れている方と、
出身地を照らし合わせてみたのだけれど、ざっくりとではあったけれど、
東日本と西日本に分けることができ、興味深かったことを覚えている。
「お通し」や「突き出し」は、席料をいただく替わりに出されることもあるし、
純粋にお客様をおもてなししたいという、お店側のご厚意で出されるものもあれば、
オトナの事情が絡んで出されるもの、
食材を無駄にしないために出されているものと事情は様々だけれども、
海外にはない新しい日本の文化、習慣のひとつであるように思う。
皆さんの地域では、「お通し」と「突き出し」どちらを使う機会が多いでしょうか。
それとも、この地域による違いは無くなりつつあるのでしょうか。
お店での呼び方によって、店主の出身地が分かることもあるのかもしれません。
「お通し」、「突き出し」を召し上がる機会がありましたら、今回のお話をチラリと思い出していただけましたら幸いです。
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