その日は予定の変更が重なり、ぽっかりと時間が空いたため、キッチンでゆっくりとだし汁でも作ろうという気分になった。
毎日のこととなれば好きなことも時間に追われ、ルーティンワークと化してしまうため、気持ちと時間の双方に余裕がある中で行う作業からは、普段とは異なる充実感を得られたりもする。
開け放った窓から流れ込んでくる温かい春風を感じながら立つキッチンに、不思議と心が躍るのは、そうした理由からだろうか。
そのようなことを思いながらパキッ、パキッと音を立てて昆布を手割りした。
普段は時間の都合もあり粉末タイプの昆布だしを使ったり、
ズボラな私はコーヒーメーカーを使って簡単にだしを取ったりするのだけれど、この日は丁寧に湯出しすることにした。
以前、乾物屋の店主に教えていただいたのだけれど
昆布にはたっぷりと旨味が含まれているけれど、だし汁の旨味を落としてしまう成分も含まれているため、美味しい昆布だしを取るには、気を付けるポイントがあるというのだ。
昆布だしの旨味の元は、グルタミン酸と昆布の表面に噴き出している白い粉。
昆布は洗わずに乾いた布巾などで表面を拭き取って使うようにと言われているのは、
この白い粉は水に溶け出しやすい性質をもっているため、できるだけ旨味成分を無駄にしないようにする狙いから。
まずは、1リットルの水に30gほどの昆布を漬けて30分ほど放置して旨味を出したあと、火にかける。
昆布は熱が加わることで細胞がすぐに壊れ、だしの旨味を落としてしまう成分を出してしまうので、水が沸騰してしまう前に昆布を取り出すのがポイントだという。
このだしの旨味を落としてしまう成分というのは、昆布を煮たときに出るヌメリ成分のこと。
このネバネバとしたヌメリにも優れた栄養が含まれているので、ヌメリ=不要ということではないのだけれど、
「旨味だけを取り出した昆布だしを作る」という点で見るとこのヌメリは雑味になるため、昆布でだし汁を作るときには、ヌメリが出る前に昆布を取り出すことが、風味豊かな昆布だしに仕上げるポイントということのようだ。
私は普段、「かつおと昆布」や「にぼしと昆布」「あごと昆布」といった合わせだしを使うことが多いのだけれど、
お鍋に鰹節をファサッと入れて……という余裕がないこともあり、コーヒーメーカーでだし汁を作っている。
鰹節や細かくカットした昆布、その他をペーパーフィルターにぎゅうぎゅうに入れ、コーヒーを淹れる手順でコーヒーメーカーのスイッチを入れると、7、8分で美味しい出汁が取れてしまう。
確か、この方法だと直火ではないため、だし汁取りに適した温度を保つことができ安定しただし汁を作ることができるのだと、某料理人の方が仰っていたように思う。
そうそう、忘れてはいけないのは、だし汁を取ったあとの昆布である。
この昆布には、水には溶け出でこない抗アレルギー成分や食物繊維がたっぷり含まれているため、ひと手間をかける必要はあるのだけれど、
花粉が飛ぶ時季や何かしらのアレルギーを持っている方は、「昆布は丸ごと食べる」ということを頭の片隅に。※もちろんこれは、昆布アレルギーを持っている方や、各々の体質や体調によって昆布を口にできない方には当てはまりません。
だし汁の繊細な香りは、気持ちをほっと落ち着かせてくれるように思いますので、
暮らしの中での、ちょっとしたキッカケやヒントにしていただけましたら幸いです。
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