この時季は、外の景色が日々変わっていく。
数日前には咲いていなかった花が咲いていたり、芽吹いていなかったはずの木の枝には、枝が見えなくなるほどの新芽が出ていたり、
散り終えた桜の花の後を引き継いだ若葉の色は、一層深みが増していて、ちょっとした貫録を感じるまでに成長している。
そして植物に限らず、時折目にするピカピカのランドセルを背負った新一年生たちも、ほんの少し小学生らしさが増しているような気がするし、
街中で見かけていた新社会人らしき方々の姿が目に留まらなくなってきているところを見るに、彼らもまた社会の中に溶け込んだのだろうと思ったりもする。
そのようなことを思いながら歩いていると、藤の花が視界に入った。
慌ただしく過ぎていく日々の中で触れる自然界の生き物たちに目を向けると、瞬間、瞬間を色濃く感じられるような気がして、ありがたい。
例えば、全く変化しない無機質な空間で日々を過ごしていたとしたら、それは少々ツマラナイのではないだろうかと思う。
うかうかしていたら藤の花を楽しみそびれてしまうから、近々、あの場所の藤棚まで足を延ばそうと思った。
もちろんメインは、その藤棚近くにある美味しいお蕎麦屋さんだったりもするのだけれど、もう少し先まで足を延ばして、今旬を迎えている金目鯛の煮付けを目当てに行くのも良い。
金目鯛は年間を通して食べることができる魚で、旬は産地によって多少異なりはするのだけれど、一般には冬とこの時季の2回、と言われている。
最も脂がのっている時季が冬なので、冬の魚というイメージが強いのだけれど、金目鯛は夏に産卵するそうで、今はその産卵を前に栄養を蓄えているため脂ののりも良いのだそうだ。
お刺身に塩焼き、軽くお出汁にくぐらせるしゃぶしゃぶ、カルパッチョに仕立ててワインのおともにするのも良いけれど、
脂ののりが良いこの時季は、お酒にもご飯にも合う甘辛い煮付けも絶品である。
私は魚釣りの経験が無いに等しいためよく分からないのだけれど、釣り好きの方の話によると金目鯛という魚は、釣ったばかりは淡く可愛らしい桜色をしているのだそうだ。
私がお話を伺った方曰く、白いお腹から背中へ向かって色づく桜色のグラデーションは、桜貝のようでもあるのだとか。
その桜色のグラデーションが少しずつ赤みを増していき、私たちが知る金目鯛の艶やかな赤色に落ち着くという。
その話を聞いてから、新鮮な金目鯛を見つけては熱い視線を向けてはいるのだけれど、やはり、その桜色のグラデーションを目にするには自分で釣り上げるほか無いようである。
紫色のグラデーションをした藤の花や艶やかな赤色をした金目鯛は、この時季ならではのお楽しみでございます。
機会がありましたら、色や美しさとともに、色と味覚とともに今年の春を感じてみてはいかがでしょうか。
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