近道をしようと公園を縦断していたら強者を発見した。
その方は、公園周りに設けられた歩道に沿って自転車を走らせ、こちらへと向かってきていた。
数十秒後には私の横を駆け抜けていくであろうと予測しつつ、この歩道に沿って公園の外へ出るのは遠回りになるのでは?そう思った瞬間である。
強者は、私の目の前をキュッと左折するや否や、ガガガガガッと妙な音を立てながら姿を消した。
思わず何ごとかと早足で後を追うと、そこには距離は短いけれど、それなりの段差を付けた階段があった。
その階段を下りることができれば確かに近道だけれど、階段は危険が伴うように見える段差で、強者は御年80歳を優に超えているように見える女性だった。
とても急いでいたのだろうけれど、そのパワフルさは、ちょっとしたアクション映画のワンシーンのようなキレがあり、驚くやら感心するやら、事実は小説より奇なりといった光景であった。
妙に早まった鼓動を落ち着かせながら、私は私で公園縦断という近道を進んだ。
通る度に変化していく公園内の紅葉を視界の端に捉えながら、今年経験した“ハジメテ”を思い返していたのだけれど、真っ先に浮かんだのは夏頃に経験したハリネズミ体験だった。
ハリネズミを飼っている方は、その可愛らしさにメロメロになると聞く。
確かに、飼い主との生活に安心しているからこそ見せる表情や行動を覗かせていただくと、メロメロになる飼い主の気持ちは、なんとなく想像できるのだけれど、
何せ私は、ハリネズミに触れたことも間近で目にしたこともなく、ハリネズミは想像や物語の中にいる動物に近かったように思う。
それが、今年。
生まれてはじめてハリネズミを間近で見て触れる機会がやってきたのだ。
ハリネズミを触るにあたって手渡されたのは、しっかりとした厚手の手袋である。
聞けば、信頼関係を築くことができていない間柄だと、ハリネズミは体を覆っている硬いトゲのような毛を立てて威嚇してくるため、怪我を防ぐために厚手の手袋が必須だという。
言われた通り、手袋を装着してハリネズミを手に乗せてもらうと、ずっしりとした重みと一緒にプラスティックのような硬さを感じる毛を手袋越に感じることができた。
そして、小さくて細い指先を器用に使いながらペレットを上手に食べる姿に釘付けになった。
ハリネズミは、繁殖から子育てをする期間以外は一匹で生活する夜行性動物で、冬は冬眠を、夏には夏眠をとるようなのだけれど、人に飼われている彼らがそれをしてしまうと目覚めないこともあるそうで、飼い主がしっかりと温度調節をする必要があるのだとか。
他にも知らないことを色々と教えていただきながらハリネズミを眺めていたのだけれど、彼らはとても繊細で警戒心が強い動物とのことで、絆を深めるためには、ゆっくりと時間をかけなくてはいけないそうだ。
公園縦断や自転車で階段を駆け下りるといった、目的地に早く辿り着くための近道はあるけれど、
ハリネズミに限らず、どのような相手との絆にも近道はなく、一進一退を繰り返しながら、相手を知り、自分のことも知りながら深め合っていく以外ないのだろう。
完成形は目に見えるわけではないけれど、そこを丁寧に深め合えたなら、そう簡単には解けない、深くて丈夫な絆が出来上がるのかもしれない。
そのようなことを思った、初冬の夕暮れ時。
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