お正月飾りを片付けながら節分飾りを少し出したこの日、昨年の干支飾りである亥(いのしし)への労いも一区切り。
12年も先のことは分からないけれど、この亥(いのしし)を再び取り出すときも、心穏やかに笑顔でいられたらと今年も思いながら、彼らを収納スペースへと移動させた。
節分飾りに取り出したのは升(ます)。
随分と前に足を運ぶ機会があった神社でいただいたものである。
升(ます)には種類がある。
木材が剥き出しになったものは「木升」、その升(ます)を漆でコーティングしたものは「漆升」という。
私の手元にある升(ます)は木升で、ヒノキで作られたものだ。
いただいたばかりの頃は、ヒノキの香りが優しく香っていたのだけれど、年を重ねる度に香りは薄れ、それに替わるようにヒノキらしい艶が出始めたのを機に、用途を節分飾りに変えたのである。
今は様々な素材で作られた升(ます)が売られているけれど、もとは、それぞれに意味があるヒノキやスギ、モミの木といった神事に使われてきた縁起の良い木が使われていたという。
また、升は釘などを使わずに複数の木を組んで作られるため、複数の人が気持ちを合わせるという様子を重ね合わせて、何かの目標に向かって皆で力を合わせるときや、夫婦になるときといった場面で縁起ものとして使われている。
この他にも縁起ものとされる理由があるのだけれど、それは木升の組み立て方である。
木升は木材を適当に組んでいるのではなく、真上から木升の角の繋ぎ目を見ると、全て左側の木材に右側から別の木材を被せるように組まれており、この部分は「入」という文字だと言われている。
「入」という文字だと言うには少々強引な気もするのだけれど、先人たちはここに「大入り」という意味を込め、縁起を担いだと言われている。
御祝いの席に升酒が用意される理由は、このようなところにあるという。
御祝いの席などで升酒を振る舞っていただくことがあるけれど、升酒のいただき方には、正しいスタイルがある。
何となく角に口をあてて飲む方が飲みやすいように思うけれど、升(ます)の平らな縁から飲むのが正しいスタイルである。
この時に手にした升(ます)が木升であれば、お酒と一緒に木の香りを楽しむのも乙。
そして、升(ます)を持つ際に、グラスを持つときのようなイメージで升の周りを手で覆うようにして持ってしまいそうになるけれど、正しくは升(ます)の底面に4本の指を添え、親指は升(ます)の平らな縁にあてる持ち方だと言われている。
女性は少し不安定さを覚えるかもしれないため、そのときには、左手を軽く添えていただくと良いように思う。
升酒をいただく機会は、そう多くはないけれど升酒のアレンジバージョンとして飲食店で目にするのは升の中にグラスを入れて日本酒を注ぐ「もっきり」だろうか。
もっきりとは、江戸時代に量り売りされていたお酒を「盛り切る」「盛り切り」といった言葉が語源なのだとか。
縁起物のイメージが強い升(ます)だけれど、先人たちは、お米や豆、酒や醤油といった様々なものを升(ます)で計量しており、升(ます)は、今で言うところの計量カップのような役割も果たしてるところをみるに、升(ます)は、ハレとケの両方で人々の身近なところにあったもの、のようである。
少しずつ春を祝うイベントも近づいておりますので、「升(ます)」に触れる機会がありました折には、今回のお話の何かしらをチラリと思い出していただけましたら幸いです。
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