幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

水浴びで輝く福助ご一行様。

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プールに飛び込みたくなるような、太陽が燦燦と地上を照らしていたその日、いくつもの福助人形を目にした。

そこは、年季が入った店構えの小料理屋の店先だったのだけれど、柿渋色をした木製のベンチ椅子の上に、大小様々なそれが並べられていた。

よく見ると、同じ福助人形は一体もなく、表情や着物の柄が異なっているだけでなく、顔を上げているタイプや深く頭を下げているタイプなど様々であった。

人通りが無いことを良いことに、足を止めて眺めていると、像を模った如雨露(じょうろ)を手にした女将さんらしき女性が店の中から出てきた。

そして、その如雨露(じょうろ)で福助人形に水をかけ始めたのである。

私に気付いた女将さんは、お天気が良いから店の中にある福助人形を水浴びさせようと思ってと言って笑った。

一度も訪れたことがない小料理屋だったけれど、マスク越しのしゃっきりとした口調と柔らかい目元を見て、良いお店であるような気がした。

その場を去ろうとすると、「見て、この福助人形」と声をかけられたものだから、ずらりと並ぶ福助ご一行様のもとに近づいた。

女将さんが指さした福助は、ペイズリー柄の着物を纏っていた。

オシャレな福助ですねと言うと、私の一番のお気に入りだと言いながら、私から離れた場所に並ぶ福助に水をかけ始めた。

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福助人形は、座布団の上に和装の裃(かみしも)を纏った、福耳の子どもが座っている人形で、呉服店や飲食店など、お商売をされている場所で目にする機会が多い商売繁盛の縁起物だけれど、家庭に飾れば家運が上がると言われている。

そして、この福助人形は、実在した人物をモデルにして作られたと言われているのだけれど、モデルだと言われる人物が複数いらっしゃるため由来も諸説あり、この方が福助だとは言えない状態。

しかし、モデルだと言われている彼らは皆、とても幸せな一生を過ごされたこともあり、廃れることなく縁起物の人形として多くの方に愛されているようだ。

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その福助を骨董品を見るような気持ちで眺めていると、女将さんは一定の距離を保ったまま、座布団のお洗濯も大変なのだと話してくれた。

確かに、小さな座布団だとは言え、これだけの人数分となればお洗濯も大変だろう。

そう思っていると、数日前に洗濯を終えて取り込んだばかりだという座布団を見せてくださったのだけれど、ダンボールに入れられたそれの数が、福助の数よりも多く見えたため、そう伝えると、福助には、飾り方の約束事というものがあるという。

一般的な福助は、座布団の上にちょこんと座らせて飾るけれど、その福助に願掛けをしている場合は、願い事が叶う度に座布団を一枚ずつ増やしていくそうなのだ。

時折、複数の座布団が重ねられた上に座っている福助を目にしたことがあったけれど、そのような意味があったのかと腑に落ちた瞬間だ。

これから複数枚の座布団の上に座る福助を目にしたら、「ほう、これが願いごとを叶えた福助か」と一目置いてしまいそうである。

この日は、纏う水滴に太陽の光が反射して神々しく輝く福助ご一行様を目に焼き付けて、その場をあとにした。

もう少し安心して出歩けるようになったときには、店内に並ぶ彼らと女将さんに会いに行ってみようと思った日。

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