和柄が側面をぐるりと囲む蕎麦猪口を出し、ミックスナッツを入れた。
カランカランッと食欲をそそる音がしたかと思えば、あっという間に蕎麦猪口内が密状態になった。
食塩がまぶしてあるものも美味しいけれど、自宅用に購入するものは決まって塩分不使用のタイプである。
再び封をしてキッチンカウンターの上に置いたのだけれど、パッケージの裏に書いてあったイルカのイラストに目が留まった。
最期にイルカショーを見たのはいつだっただろうか。
確か夏が来る前の、ちょうど今頃の時季だったことや、そこで食べたかき氷の色がキレイな青色をしていたことなどを、ぽつりぽつりと思い出した。
イルカショー、久しぶりにみてみたいかも。
そのようなことを思いながら再度、パッケージに視線を落とすと『イルカとクジラの違い』というタイトルに気が付いた。
イルカはイルカで、クジラはクジラじゃないの?と思いながら文字を追うと、違いは大きさのみで、単純に全長が4メートル未満であればイルカ、4メートル以上であればクジラだと結んであった。
え?それだけ?と、思わず心の声が漏れてしまいそうな事実に拍子抜けした。
イルカと言えばハッピーモチーフとして人気があり、様々な伝説が世界中に残っている。
日本各地にも覚えられないほどの数の話があることから、古から人々に愛されてきたことが想像できる存在だ。
日本で見聞きする話に登場するイルカは、お詣りをするイルカが多いように思う。
私の記憶に薄っすらと残っているのは、富士山詣り、お伊勢詣り、その他にも祀られている神様をお詣りしに行くイルカなのだけれど、その道中で起きた話が物語として残っている。
このような話が残っているからイルカは神様の使いだと言われるのか、神様の使いだからこのような話が残っているのか、この辺りは分からないけれど、お詣りに向かうイルカたちを想像すると、口元が緩んでしまうのだ。
イルカは、ギリシャ神話にも度々登場する。
神話と聞けば小難しい印象が先に立つこともあるけれど、何のことはない。
ある意味、人間よりも人間くさい神と呼ばれる方々の日常をのぞくことができる読み物である。
ギリシャ神話に登場するイルカの群れは、とある音楽家を助けている。
私の記憶も少々曖昧になってきているので、ざっくりとしたあらすじでの紹介になってしまうけれど、これは、音楽コンクールで優勝して大金や財宝を手に入れた音楽家の話。
この音楽家は大金や財宝と共に、船で自分の国へ帰ろうとしたのだけれど、その船に乗っていた水夫たちに、大金と財宝目当てで襲われてしまうのだ。
音楽家は、自分が置かれた立場を理解し、最後にもう一度だけと楽器を奏でながら歌い、そのまま海に飛び込んだという。
すると、演奏と歌声にひかれて集まってきていたイルカの群れが音楽家を背中に乗せ、船よりも先に目的地の港に送り届けたのだとか。
それからしばらくして、あの水夫たちの船も港に到着するのだけれど、彼らは事情を聴いていた国の者たちによって取り押さえられたという話である。
他にも、イルカは海の神、海の王と呼ばれるポセイドンの恋路や夫婦仲を取り持つこともしているのだ。
ポセイドンはある女性にひと目惚れしたのだけれど、なかなか良い返事がもらえなかったという。
それならばと、海の宝石など、様々なものを贈って求愛してみるのだけれど、これも上手くいかず、何かを作って贈ることに。
このときに作ったものの中にあったイルカを女性がとても気に入り、夫婦になることができたという話や、
晴れて夫婦になれたものの、自由奔放で荒々しいポセイドンのことを好きになれなかった妻が家出をした際、妻を見つけ出しポセイドンのもとへ帰るよう宥めたのがイルカだという話もある。
そうそう、夜空に浮かぶ星座の中にイルカ座というものがあるけれど、これは、イルカに何かとお世話になっているポセイドンの感謝の気持ちなのだとか。
自由奔放で荒々しい面がクローズアップされることが多い海の神、海の王だけれど、あの大きな手で試行錯誤しながらイルカを作ったり、お世話になったからなーなんて思いながらイルカを星座にしたのだろうかなどと想像すると、不器用さが浮き彫りになり可愛らしく見えたりもする。
そして、人々がイルカを見て癒される理由が何となく分かったような気もしたりして。
そのようなことを数珠繋ぎに思ったけれど、この日一番の衝撃は、イルカとクジラの違いは「大きいか小さいか」だけということである。
イルカもクジラも人だって、無理に枠にはめる必要はないということのようだ。
イルカやクジラを目にする機会がありました折には、今回の何かしらをちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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