幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

お役目終えた木彫り熊。

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マンション内のゴミ置き場へゴミを捨てに行った。

入り口の扉を開けて中に入ると、視線の先に猫か何か、小さな動物が座っているような気がして、体がビクッと小さく跳ねた。

動く気配が無かったものだから近づいて見ると、木彫りの熊が2体並べられていた。

木製で鮭を加えた凛々しい面構えの、見慣れたあの熊だ。

北海道の工芸品として有名な、その木彫りの熊は、毛並みまでもが丁寧に再現してある立派なものだったけれど、役目を終えたのだろう。

柿渋色をした体は所々、色が剥げており、随分と年季が入った姿をしていた。

立派な工芸品だとは思うのだけれど、もしも私が手にするようなことになったなら、きっと扱いに困っていたのではないだろうかと思う。

いつだったか、北海道生まれの友人とそのような話をしたことがあったのだけれど、あの木彫りの熊は単なる土産物ではなく縁起物なのだと言っていた。

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なんでも熊は、私たちの手の平に乗せられるほど小さい状態で生まれてくるのだとか。

しかし、大人になる頃には私たち人間よりも大きくなって力も何倍にも増すことから、木彫りの熊には、すくすくと元気に成長する、無事に成長する、大物になる、などといった願いが込められているという。

更に、様々な困難や試練を乗り越えた先に、嬉しい成果や大物になるという結果があるはずだということで、試験合格のお守りとして木彫りの熊を連れ帰ったり贈ることもあるそうだ。

友人は、その熊がエンジュという木で作られている場合、縁起が増すのだとも言っていた。

この話の中身は私の記憶からすっぽりと抜け落ちてしまっていたので、この機会にと簡単に調べてみたところ、エンジュの木は災厄除けや魔除けの木として知られており、新居にシンボルツリーとして植える方もいらっしゃる木なのだとか。

そして、長寿や出世、幸福や安産などを運んでくる縁起の良い木としても人気があるようなので、エンジュで作られた木彫りの熊は、これらの話が合わさった最強の縁起物ということのようだ。

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もとを辿ると、農作業を行うことができない北海道の厳しい冬間の収入源として、観光客向けに作られ始めた木彫りの熊だったようだけれど、

改めて触れてみると、そこに様々な願いを込めたり縁起を担いだりと、丁寧に考えて作られている工芸品だということが分かった。

単なる土産物で終わらせない所が日本人らしく、粋である。

そう分かっても、今の私には上手く扱える自信はないのだけれど。

お役目を終えた木彫りの熊たちに心の中で「おつかれさま」と呟いて扉を閉めた夜。

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