久しぶりに、近場にある公園内を縦断した。
そこには、池をメインに造られた日本庭園風のゾーンがある。
池には大人が5、6歩ほどで渡り切ってしまえるほどの短い橋がかけられており、池に近づくと羽を休めているカモや野鳥、小さな岩場で甲羅干しをしている亀などの姿を見ることもできる。
池の周りには、池を眺め下ろすことができる小高い丘や、水道水ではあるのだろうけれど、程よい水量で流れ落ちる滝、休憩所となる東屋まであり、観光地のような派手さはないものの、遊び心が詰め込まれた凝った庭である。
その日も厳しい日差しが降り注ぐ夏日だったので、公園内の日陰を縫うようにして移動しており、このゾーンを通る流れとなった。
滝を流れ落ちる水音は、それだけで体感温度を下げてくれるものだと思いながら通り過ぎようとしたときに、カポーンと脳天を突き抜けるような音が耳に届いたのである。
知っている、この音。
そう思い、音がした方へ視線を向けると、干上がっていたはずの石製の手水鉢のようなものにたっぷりと水が注がれており竹で作られた鹿威(ししおどし)が設置してあったのだ。
鹿威し(ししおどし)。よく、お寺や日本庭園などで目にするあれだ。
竹筒の中に水を引き入れて、水が竹筒にたっぷり溜まると水の重みで竹筒が傾き、今度は中の水がこぼれるというシンプルなものだけれど、水の重さが変わるときの反動を使って竹で石を打ち、あのカポーンという音を出すのである。
現代の騒音と呼ばれるような類の音が無かった時代は、この鹿威し(ししおどし)の音で田畑を荒らす鹿やイノシシ、その他の鳥獣たちを驚かせて追い払っていたという。
しかし、そうして鳥獣たちを追い払えるのもしばしの間だけ。
鳥獣たちも、この音は自分たちに害を与えるものではないと学習し、すぐにこの音に慣れてしまったという。
それでも、この鹿威し(ししおどし)が無くならずに現代にまで存在しいている理由は、竹が石を打つときのカポーンという音に先人たちが癒され、風流だと感じるようになり、鳥獣を追い払う目的ではなく自分たちの癒しのために庭に設置するようになったからなのだとか。
一定のリズムで刻まれるカポーンという音と水音のハーモニーは、多くの現代人にとっても、一服の清涼剤のようなものであるように思う。
その日は、随分と久しぶりに耳にした鹿威し(ししおどし)のカポーンに癒されたわけだけれど、随分と真新しい竹だったことを思い返し、日本庭園ゾーンはこれからも進化するのかもしれないとニヤリとしてしまった。
どなたが手掛けているのかは存じ上げないけれど、密かに造園過程を見守らせていただこうと思った夕刻である。
鹿威し(ししおどし)のカポーン、なかなか耳にする機会はありませんけれど、癒し効果があるように思いますので、鳥獣払いから始まったことなどを思い出しつつご堪能あれ。
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