待ち合わせまでの時間潰しに書店へ足を踏み入れた。
予想以上の暖房の効きに、
本格的な冬がすぐそこまで来ていることを、
半ば強引に実感させられたような気がした。
何となく、カラフルな何かを眺めたくてレシピ本の棚へと向かった。
手に取ったのは果実酒のレシピ本。
一番最初に目に留まった一冊をパラパラと捲ると、
ビタミンカラーの美味しそうな果実酒が次々と目に入ってきた。
私は果実酒を漬けたことはないのだけれど、
本の中にはレシピだけではなく効果、効能まで書いてあり、
果実酒の世界も奥が深いものなのだろうな、と思った。
そう言えば、昔の書物には猿酒(さるざけ)なるものが登場することがある。
この猿酒(さるざけ)は、自然の中で熟した果実に、
自然の中に存在している天然酵母がくっついて自然発酵し、
人の手を使わずにできたお酒のこと。
もしくは、野生の猿たちが山の果実を木の穴や岩の穴に詰め、発酵させて作ったお酒のこと。
野生の猿たちは秋の夜長、この猿酒(さるざけ)を飲みながら宴会を開くと言う話がある。
しかも、この宴会は仲の良い猿たちで集まって開催されるというのだから、
人間の宴会好きのルーツはこの辺りにあるのかもしれないと思わせられる。
猿酒(さるざけ)と言えば、このように山奥で発酵したお酒を指すのだけれど、
実はもうひとつ、猿酒(さるざけ)の入った甕の中を覗き込むと命を落とす、
という言い伝えを持った猿酒(さるざけ)が存在する。
これは、その土地によって少しずつ伝わり方に違いがあるのだけれど、
一番耳にする話は、江戸時代よりも前から秋田県にある、
とある旧家に伝わる門外不出の薬酒の話がもとになっているように思います。
こちらの猿酒(さるざけ)は今も存在しており、
持ち主の子孫が受け継ぎ厳重に保管しているのだとか。
こちらの猿酒(さるざけ)に使用されている材料は、猿と酒と塩と水。
作り方は、猿を乾かしてお酒に漬け込んだものを干し、
これを塩水に漬けて数年寝かせたら出来上がり。
※細かな作り方を読んだことがあるのですが、こちらでは、色々な意味で自主規制させていただき、簡易版でお伝えしております。
これは、私たちが思うお酒ではなく、とてもよく効くお腹の薬として大切にされてきたという。
そして、この猿酒(さるざけ)が入った甕の中を覗くと命を落とすのだとか。
実際に、命を落とすことを覚悟の上、
持ち主に頼み込んで甕の中を覗いた寺の住職が命を落としたという話も残っていたはず。
世の中には様々なお酒が存在するものだ。
ビタミンカラーの美味しそうな果実酒のレシピ本から、
うっかり猿酒(さるざけ)を思い出してしまったけれど、
私は、あちらの猿酒でも、こちらの猿酒でもなく、美味しくて陽気なお酒がいい。
そう思いながら、書店を後にし、約束のお店へと向かった。
猿酒(さるざけ)の名を見聞きされた際には、どちらの猿酒(さるざけ)かしら?と、
今回のお話をちらり、思い出していただけましたら幸いです。