少し前に受けた健康診断プログラムの中に視力検査と眼圧検査というものがあった。
毎年受けている定番検査のひとつなのだけれど、私はこれらに対して苦手意識がある。
まず、視力検査だ。
これって本当だろうか?と思う私がいる。
と言うのは、ある程度まではハッキリと見えているのだけれど、
検査の後半、豆粒サイズのCの文字の隙間の位置を、
ここが開いている気がする、そう見える、と半ば当てずっぽうとも言えるような感覚で答えてしまうことがあるのだ。
さすがに、結果を少しでも良くしたいというような類の気持ちは無いのだけれど
全く見えないわけではないから見えないとは言い難く、
だけれども、ハッキリと見えているわけでもなく、
その曖昧な状態を私の感覚や勘が補って出した答えを
「見えた」という形で伝えることになっている。
嘘をついたわけではないけれど、少々モヤッとした気持ちのまま次の眼圧検査を受けることになるのだ。
眼圧検査は、見開いた目に風を当てられる、あの検査だ。
眼圧が高いと血圧も高い傾向があるそうで、
以前は、この2つには関連性があるなどと言われていたこともあるけれど、
双方が互いに影響を与え合っているのではなく、
自律神経の影響がそれぞれに表れるという見解が主流になってきていると聞いたことがある。
そのようなことを聞くと大切な検査であるのだろうと素人でも想像できるけれど、
私の瞼は風を瞬時に察知しパチリと瞼を閉じ、この検査を拒絶するのだ。
検査をしてくれる方に申し訳なくなるくらい、
この人わざと?と思われてもおかしくないくらいパチリと閉じるため、非常に困っている。
自分の意志でコントロールできないと判断した私は、その旨を正直に伝えてみることにした。
なんとも妙な自己申告なのだけれど「瞼が言うことをききません……」と言ってみた。
笑いを堪えながら冷静風を吹かせつつ「お顔に触っても良いですか」と言う検査技師は、
私から了承を得ると間髪を入れず「失礼します」と言って機械越しから腕を伸ばし、
私の瞼を強制的にグイッと押し上げてホールドした。
瞼に少しでも力が入れば、グイッと押し上げている検査技師の指先にも力が込められ
逃げるに逃げられない状況下で、できることなら誰にも見られたくない顔を晒しつつ、
私の眼圧検査はスムースに終了した。
時間にして5分も経っていなかったと思うのだけれども、
身体に妙な力が入ったのか、長い時間、薄暗い検査室に居たような気がした。
その後も、薄暗い検査室に人が出入りしていたけれど、
あの人たちも瞼をグイッと押し上げられているのだろうかと思ったり。
今年の視力、眼圧検査も無事に終わり、
年に一度の苦手案件のこともすっかりと忘れてしまっていたのだけれど
強くて冷たい向かい風が歩いている私の顔をぐいぐいと押してくるものだから、
両目を細めながら、そのようなことを思い出してしまった。
恥ずかしい姿を晒すことも一生懸命生きているようで、微笑ましいような気も。
と思いかけて心の中で大きく首を振った。
やはり、あの瞼を押し上げられてホールドされている顔は、
誰にも見られなくないし、見せられないと思うある日の帰宅路だ。