友人が差し入れに送ってくれたタブレットチョコレートと読みかけの本、
そして、大きめのマグカップに、たっぷりと注ぎ入れた紅茶を手に、ガーデンテーブルへ移動した。
梅雨時の雨上がりの空は、清々しい晴れ間とまではいかないけれど、
しっとりとした冷たい空気は、それはそれで心地よい。
そして、先ほどまで降っていた雨が乾ききる前の道路を行き交う車が跳ね上げる水しぶきの音も、悪くない。
チョコレートの包み紙を解きながら思う。
ここ最近、デザイン性が高く、風味豊かなタブレットチョコレートが増えている。
タブレットチョコレートとは、フランス語で「板チョコ」のことなのだけれど、
バレンタインの時季になると世界中のチョコレートが集結すると言われている日本では、
「板チョコ」に変わって定着しつつある呼び名である。
板チョコは英語で「チョコレートバー」と言うけれど、
新しいものを取り入れて、人々を魅了する見せ方を見極めることに長けた日本では、
板チョコやチョコレートバーよりも洒落て聞こえる(ような気がする)「タブレットチョコレート」に軍配が上がったのだろうと思った。
友人から届いたそれは、ハーブやお花のコーディアルでデコレートされた華やかなもので、
ほんのりと微かに花の香りが鼻を抜け、とても優しい味がした。
タブレットチョコレートと言えば、ナッツやドライフルーツがギッシリと敷き詰められているようなものもあるけれど、
その多くは溝で仕切られているような形をしている。
シェアしたり、食べたい分だけ割り取るときにも重宝するように思うけれど、
本来は「割りやすさ」や「食べやすさ」の為の溝ではないという。
学生の頃、ひと通りの遊びに飽きてきた面々で工場見学にはまっていたことがある。
そのときに、チョコレート工場の方が仰っていた。
溶かしたチョコレートは、型に入れて冷やし固められるけれど、
均一に冷やし固められないと、美味しさや口溶けなどが損なわれる上に、
商品としてチョコレートを仕上げるまでに要する時間も長く、効率もよろしくないのだとか。
そこで、一枚のチョコレートに溝を作って型に触れる表面積を増やし、
素早く、均一に冷やすことで美味しいチョコレートを作るのだそう。
案内してくださった方が、割りやすくするための溝ではないので上手く割れないのは当然だというようなことを、笑いを誘う鉄板文句と共に仰っていたと記憶している。
それからタブレットチョコレートを上手く割れずにガッカリする友人を見ると、
「それが正解よ!」と心の中で呟いている。
タブレットチョコレートのCMなどで、チョコレートをパリッといい音をさせて齧るシーンを目にすることがあるけれど、
あれは、遠回しに「この溝は割りやすくするための溝ではない」というメッセージを送っているのだろうか。
いや、それは考え過ぎだろうか。
妙な思考ループに突入しかけたため、チョコレートをもうひとかけら口の中へ入れ、読みかけの本に手を伸ばした日。
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