少しずつ暖かくなっていることもあり、その日は少しだけ遠回りをして帰ることにした。
自宅近くの道でありながら普段使うことがない道には、小さくて新しい発見がある。
先日は、お店の中が一切見えない会員制のお好み焼き屋を見つけた。
コンクリートに覆われたそのお店は、どこが入り口なのか、どのようにして店内に入るのか、更に会員になるにはどうしたら良いのか、
そもそもお客を選ぶことができるほどに美味しいものを提供してくれるお店なのだろうか……などと思ってしまうようなミステリアスさをまとっていた。
更に私は、そのお店の店主には失礼なのだけれど、このお好み焼き屋は、宮沢賢治の『注文の多い料理店』のようなお店なのではないだろうかと、勝手に想像を膨らませニヤついてしまった。
何でもない小路には空想の種だって落ちているから侮れない。
イヤホンから聴こえてくる音楽を2曲ほどスキップさせ、お気に入りのメロディーと共に歩いていると、
等間隔に植えられている街路樹と街路樹の間に置かれているプランターに咲く白い花が目に入った。
名を知らぬそれを眺めながら歩いていると、プランターに刺さっていたプレートに「クロッカス」と記されていることに気が付いた。
私の中でクロッカスと言えば、紫色だというイメージが強かったからなのか、同じ姿形をしているのにも関わらず、色が違うだけでクロッカスだと認識できなかったようだ。
それから数日ほど経った頃、何となくクロッカスの色が気になり調べてみたところ、
クロッカスは花の色(品種)によって開花時期が異なるそうで、見頃だと言われている2月から4月の開花時期の中で、黄色から白、白から紫色へとバトンを渡すようにして咲くことが分かった。
私が目にしたものは、黄色からバトンを受け取った白いクロッカスだったということになる。
そう言えば、クロッカスは別名ハルサフランと呼ばれることがある。
これは、パエリアやカレーでお馴染みの、黄色いサフランライスを作るための香辛料として使用されている食用サフランとクロッカスが、同じ種であることが理由だ。
クロッカスとサフランの花を見比べてみると、クロッカスは春に咲くけれど、サフランは秋に咲き、
クロッカスは白、黄、紫とカラーバリエーションが豊かだけれど、サフランは紫一色という違いがる。
そして、一番のポイントは花の中央にある雌蕊(めしべ)だ。
クロッカスの雌蕊(めしべ)は黄色なのだけれど、サフランの雌蕊(めしべ)は赤くて細長く、これが香辛料や生薬として使用されているサフランである。
念のために付け加えておくと、春に咲くクロッカスは完全に鑑賞用で秋に咲くサフランは食用なので、間違ってもこの時季に目にするクロッカスの雌蕊(めしべ)は口にしてはいけない。
今回、サフランの花が紫一色だということを知った私は、ふと思った。
私がこれまでクロッカスだと思って見てきたものは、サフランだったのではないだろうか、と。
白や紫のクロッカス(ハルサフラン)を目にする機会や、黄色いサフランライスを味わう機会がありましたら、
「クロッカスとサフランは、実はお仲間」、そのようなことをチラリと思い出していただけましたら幸いです。
そして、暮らしの中に小さな春を見つけて楽しんでみてはいかがでしょうか。
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