送られてきた郵便物の中にはビスケットの形をした付箋紙が貼り付けられていた。
ビスケットは写真ではなかったけれど、今にも甘い香りがしてきそうだと思ってしまうほど美味しそうに描かれていたため、書き添えられたメッセージを読むよりも先にビスケットに見入ってしまった。
ビスケットと言えば、天ぷらの具材になると耳にしたことがある。
以前、仕事をご一緒させていただいた方の中に、ビスケットの天ぷらを郷土料理だとおっしゃる方がいらしたのだ。
巷には、様々な具材を天ぷらに使う創作料理店やレシピが多数ある。
アイスクリームを天ぷらにすることもあるくらいだから、ビスケットの天ぷらがあっても不思議ではない。
しかし、「ビスケットの天ぷら」という言葉をはじめて耳にしたこともあり、そのビジュアルを思うように想像できなかった記憶がある。
ビスケットは、栄養価が高くて日持ちする食品だったこともあり、古から保存食のひとつとしての顔を持っている。
現在販売されている、食品を災害対策用にまとめた非常食セットの中にもビスケットが加えられているところを見るに、今も変わらず、頼りになる食べ物として重宝されているようだ。
その貴重なビスケットをボリュームアップさせた「おやつ」が、ビスケットの天ぷらだのはじまりなのだそう。
シンプルなプレーンビスケットに米粉や天ぷら粉の衣を纏わせて油で揚げると、2~3センチほどの厚みをもった、サツマイモの天ぷらのようなビジュアルをしたビスケットの天ぷらが完成する。
シンプルなプレーンビスケットであれば、どのようなものを使っても作ることができるようなのだけれど、当時の私は、「これで作ってみて」と、ご当地ビスケットをいただき、言われるがままに作ったように思う。
想像していたよりも衣が膨らみ、小さな揚げパンのような、ビスケット味の揚げ饅頭のような「おやつ」に仕上がった。
気になるお味は、ビスケットの優しい甘味を感じる素朴な味で、食感は米粉の衣の働きなのか、もっちりとした、癖になるものだった。
私はシンプルな衣で作ったこともあり甘さも控えめなものに仕上がったけれど、ご家庭によっては衣に少量のお砂糖を加えて甘みを足すこともあるということだった。
天ぷらはポルトガルから、ビスケットはオランダから伝えられた食べ物だけれど、それらを合わせたビスケットの天ぷらを生み出すなんて、日本人らしさ満天である。
当時、ビスケットの天ぷらを美味しく興味深くいただいたのだけれど、ビスケットを揚げて楽しむ習慣がない私がビスケットの天ぷらを口にしたのは、あのときの一度きりである。
そう言えば、「ビスケットの天ぷら」なるものがあったなとビスケットの形をした付箋紙を見て思い出した日。
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