雨が上がったその日、イチョウが並ぶ通りを歩くと葉が付いたイチョウの実、いや、銀杏の実があちらこちらに落ちていた。
その光景は、前日の雨風が、イチョウの葉や銀杏の実を枝から振り落とすほどのものだったことがひと目で分かるものだった。
必要なことが必要なタイミングで起きているのだろうけれど、色づく前や熟れる前に木から振り落とされたそれらを目にすると、自然は容赦ないとも思った。
この日は、落ちている大量の銀杏の実を目にしたからなのか、様々な木の実が目に留まった。
名が分かるものは赤く色づき始めたヤマモモくらいだったけれど、季節の移ろいを垣間見ながらの贅沢な移動時間となった。
移動していると、看板を降ろす作業員の方がいた。
度々使う道であるにも関わらず、降ろされている看板を見てはじめて、そこが日本舞踊の教室だったことを知った。
私の目には、古びた様子も破損した様子も無いように映る看板を視界に捉えつつ作業中の横を通ると、聞こえた会話から教室を閉めるらしいということが分かった。
日本舞踊と言えば、古事記の中でもメジャーなお話のひとつ、天の岩戸開きのワンシーンが始まりだと言われている。
今回は、そのようなお話を少し。
ご興味ありましたら、お好きなお飲み物片手に、移動の合間に、お付き合いくださいませ。
『天の岩戸開き』や『天の岩戸伝説』などといったタイトルで知られておりますけれど、登場人物が多いように思いますので、ここではお二方のお名前にのみフォーカスいたします。
今回の主人公である天照大御神(アマテラスオオミカミ)と日本舞踊の始まりとなった天宇受賣命(アメノウズメ)のお二方です。
※以降、分かりやすさ重視のため、カタカナ表記で失礼します。
ある日、アマテラスオオミカミの元に可愛がっていた弟がやってくるのですが、この弟のやんちゃっぷりと言いますか、悪行と言いますか、これが度を越しておりました。
これに対して堪忍袋の緒が切れたアマテラスオオミカミは、天の岩戸に隠れ引き籠ってしまうのです。
アマテラスオオミカミは太陽神と言われておりましたので、太陽神が引き籠って表に出て来なくなったことから、世の中から太陽の光が消え暗闇のみの世界となりました。
暗闇のみの世界となったそこには、様々な災いが次々にやってくるものですから、「緊急事態発生!お手すきの神様は至急高天原にお集まりください」という声が八百万の神にかけられ、緊急会議が行われたのです。
議題は、『暗闇の世界に再び光を当ててもらうために、天の岩戸に引き籠ってしまったアマテラスオオミカミに岩戸から出てきてもらうには、どうしたら良いか』というものでした。
そして、閉ざされた天の岩戸の前で大宴会をひらいてアマテラスオオミカミを誘い出そうという結論に至るのです。
宴の準備が整うと、八百万の神々が再び会して飲めや歌えやの大宴会が始まります。
暗闇に覆われて静まり返っているはずの岩戸の外が賑やかなので、中にいるアマテラスオオミカミも外の様子を気にしていたと思うのですが、
その賑やかさが更に増したのは、美しい女神として人気があるアメノウズメが、大きな桶をひっくり返して作った簡易ステージの上で踊り始めたときです。
あまりにも面白おかしく踊るものだから、その場にいた神々は大笑い。
そして、その踊りにつられた八百万の神々も好き勝手に踊り始めるのです。
岩戸の外の賑やかさが気になって仕方なかったアマテラスオオミカミは、そーっと岩戸を開けて外の様子を窺います。
それに気が付いたアメノウズメは、「あなたよりも素敵な神がいらっしゃるから嬉しくて皆で踊っているのよ」と踊りながら伝えるのです。
そう聞いてしまったら増々気になるというもの。
アマテラスオオミカミは、その素敵な神様をひと目見ようと岩戸から出てくるのですが、そのまま出て来られたのでは誰もいないことがばれて、再び天の岩戸に引き籠られてしまいます。
この状況を想定していた八百万の神々は、予め鏡を作って用意しておいたのです。
この鏡が、三種の神器のひとつの八咫鏡(やたのかがみ)だと言われています。
宴の間ずっとスタンバイしていた鏡担当の神様は、出てきたアマテラスオオミカミを鏡に映します。
すると、アマテラスオオミカミは鏡に映っているものが自分だとは気付かずに、どんどん鏡に近づいていきます。
この隙に、天の岩戸の出入口を閉じたため、アマテラスオオミカミが再び岩戸に引き籠ることはなく、世の中に光が戻ったという話が、古事記の中で『天の岩戸開き』や『天の岩戸伝説』などといったタイトルで知られているお話です。
そして、このアメノウズメの舞いが、「日本舞踊の始まり」「日本芸能の始まり」などと言われています。
触れる機会はそう多くない古事記ですけれど、書いてあることは、私たちの身近でも起き得る出来事のようなもの収められており、「神様世界の本日のブログ」のような気分で触れてみますと、思いのほか楽しめる読み物であるようにも思います。
日本舞踊に触れる機会がありました折には、柊希訳ではありましたけれど、本日のお話をちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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